24 1月 2026, 土

AIによる物流TMSの進化:単なる「最適化」から、自律的な「エージェント」による例外対応へ

世界的なサプライチェーンの複雑化に伴い、TMS(輸配送管理システム)におけるAIの役割が変化しています。従来のルート最適化にとどまらず、データ断絶やトラブル発生時に自律的に判断・行動する「AIエージェント」の活用が視野に入ってきました。日本の「物流2024年問題」解決の糸口ともなり得る最新動向と、日本企業が留意すべき実装のポイントを解説します。

「最適化」のその先へ向かう物流AI

物流業界におけるIT活用、特にTMS(Transportation Management System:輸配送管理システム)の領域では、長らく「可視化」と「数理最適化」が主戦場でした。積載率の向上や配送ルートの最適化計算は、機械学習の古典的な適用領域です。

しかし、近年のグローバルな動向を見ると、AIの適用範囲は「計画の最適化」から「実行プロセスの自動化・自律化」へとシフトしています。元記事でも触れられている通り、キャリア(運送会社)からのデータフィードが途絶えた際や予期せぬ障害が発生した際に、AIが単にアラートを出すだけでなく、自律的なエージェントとして機能し、関係各所への連絡やリカバリー策の提示を行うアプローチが注目されています。

「AIエージェント」が埋めるシステムと現場の隙間

特筆すべきは、生成AIやLLM(大規模言語モデル)の登場により、これまで人間が介在しなければならなかった「例外対応」の領域にシステムが踏み込み始めた点です。

例えば、運送会社とのシステム連携が一時的にダウンした場合、従来であれば担当者が電話やメールで状況確認を行う必要がありました。しかし、最新のAIエージェント技術を応用すれば、システムが自動的にキャリアの担当窓口へ自然言語で問い合わせを行い、得られた回答を構造化データとしてシステムに再取り込みするといったワークフローが可能になります。

これは、FAXや電話、非定型メールでのやり取りが依然として多く残る日本の物流現場において、極めて親和性の高い技術と言えます。API連携が完備されていない中小規模の運送会社との調整業務を、AIエージェントが「人間のような柔軟さ」で補完する未来が現実味を帯びてきています。

実務実装におけるリスクと「Human-in-the-loop」

一方で、このような自律型AIを日本の商習慣に適用するには、慎重な設計が求められます。AIが勝手に運賃交渉を行ったり、誤った配送指示を出したりするリスク(ハルシネーション等)を完全に排除することは、現段階では困難だからです。

特に「現場の阿吽の呼吸」や「義理人情」が重視される日本の物流において、AIによる機械的なコミュニケーションは摩擦を生む可能性があります。したがって、AIはあくまで下書きや提案作成、一次対応までを担当し、最終的な意思決定や承認は人間が行う「Human-in-the-loop(人間が関与する仕組み)」の維持が、当面は不可欠となるでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

以上の動向を踏まえ、日本の物流・製造・小売企業がTMS領域でAI活用を進める際の重要ポイントを整理します。

  • 「2024年問題」への実務的アプローチ:
    ドライバー不足や労働時間規制への対応として、単なるルート計算だけでなく、配車担当者(ディスパッチャー)の調整業務負荷を下げるための「コミュニケーション支援AI」や「例外対応の自動化」に注目すべきです。
  • レガシー資産とAIのハイブリッド連携:
    すべての取引先が高度なデジタル基盤を持っているわけではありません。FAXや電話の内容をAIでデジタル化し、基幹システムにつなぐといった「つなぎ役」としてのAI活用が、日本固有の課題解決には有効です。
  • ガバナンスと責任分界点の明確化:
    AIエージェントが外部と接触する場合、その発言や決定が法的な拘束力を持つのか、トラブル時の責任は誰が負うのかを事前に整理しておく必要があります。技術検証(PoC)と並行して、法務・コンプライアンス面でのガイドライン策定を進めることが推奨されます。

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