22 1月 2026, 木

「AI採用ツール」への訴訟が投げかける問い:人事評価アルゴリズムの透明性と日本企業が備えるべきリスク管理

米国でAIを用いた採用選考ツールの提供企業に対し、不当な格付けを行ったとして集団訴訟が提起されました。この事例は、人事領域(HR Tech)におけるAI活用の法的・倫理的リスクを浮き彫りにしています。効率化の切り札としてAI導入が進む日本企業においても、他山の石とすべきガバナンスとコンプライアンスの要点を解説します。

米国で問われた「AIによる格付け」の法的責任

2026年1月、米国にてAI採用プラットフォームを提供する企業に対し、求職者らが訴訟を起こしました。争点となっているのは、同社のAIツールが応募者に対して行う「スコアリング(格付け)」の性質です。

原告側は、AIによるスキルや適合度の判定が、米国の公正信用報告法(FCRA)における「消費者報告書(信用調査や経歴調査)」に該当すると主張しています。もしこれが認められれば、AIベンダーは信用情報機関と同様に、データの正確性を保証し、評価内容を本人に開示し、異議申し立てを受け付ける厳格な義務を負うことになります。

この訴訟は、単なるツールの不具合に対するものではなく、「AIによる自動評価が個人の職業人生を左右する決定権を持ち始めている」という現状に対し、法的な網をかけようとする社会的な動きの一つと捉えるべきです。

「ブラックボックス」化する選考プロセスとリスク

従来の書類選考でも、評価基準の不透明さは存在しました。しかし、AIによる選考、いわゆるアルゴリズムによるスクリーニングの最大の問題は、その判断プロセスがブラックボックス化しやすい点にあります。

大規模言語モデル(LLM)や機械学習モデルは、過去の膨大な履歴書や採用データを学習します。その過程で、過去のデータに含まれるジェンダーや学歴、職歴に対するバイアスをモデルが増幅してしまうリスクは、以前から指摘されてきました。今回の訴訟でも、AIが誤った推論(ハルシネーションなど)に基づき、候補者を不当に低く評価した可能性が問われています。

企業側が「AIが不合格と判断したから」という理由だけで選考を進めた場合、その説明責任を誰がどう果たすのか。これは技術的な精度だけの問題ではなく、企業の人権デューデリジェンス(人権への配慮義務)に関わる重大な経営課題です。

日本企業におけるHR Tech導入の現状と課題

日本国内でも、少子高齢化による労働力不足を背景に、採用業務の効率化は喫緊の課題です。エントリーシート(ES)の読み込みや一次スクリーニングに生成AIを活用する事例は、大企業を中心に急速に増えています。

日本の現行法において、米国のFCRAのような直接的な規制がAIスコアリングに適用されるわけではありません。しかし、個人情報保護法では、個人データの適正な取り扱いや、プロファイリング(個人の属性や行動履歴の分析)に関する透明性が求められつつあります。また、政府の「AI事業者ガイドライン」等でも、人間中心の判断が強調されています。

もし日本企業が導入したAIツールが、特定の属性を持つ候補者を体系的に排除していたことが発覚した場合、法的なペナルティ以上に、深刻なレピュテーションリスク(評判の毀損)を招くことになります。「ベンダーのツールを使っただけ」という弁明は、ステークホルダーには通用しません。

日本企業のAI活用への示唆

今回の米国の事例を踏まえ、日本企業がAIを採用や人事評価に活用する際には、以下の3点を実務上の指針とするべきです。

1. 「AIに決めさせない」ヒューマン・イン・ザ・ループの徹底
AIはあくまで「判断の支援」に留めるべきです。特に不採用や低評価といったネガティブな判断を行う際には、必ず人間の採用担当者が内容を確認するプロセス(Human-in-the-loop)を組み込んでください。AIのスコアを絶対視せず、あくまで参考指標の一つとして扱う運用設計が不可欠です。

2. ブラックボックスなツールの回避とベンダー評価
導入するAIツールが「どのようなロジックで判定しているか」「学習データに偏りはないか」について、ベンダーに対して説明を求めてください。説明可能性(XAI)の低いツールや、ロジックを完全な企業秘密として開示しないツールの採用は、コンプライアンス上のリスクとなる可能性があります。

3. 候補者への透明性確保
「選考プロセスの一部にAIを使用していること」を募集要項などで明示することが、信頼獲得の第一歩です。また、欧州のGDPR(一般データ保護規則)などの動向を見据え、AIによる自動処理に対する異議申し立ての窓口や、人間による再審査のルートを用意しておくことは、将来的な規制強化への先回りした対応としても有効です。

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