2026年1月、Meta社はAIエージェント技術を持つ「Manus」を20億ドルで買収する計画を明らかにしました。しかし、この巨額買収は既存顧客の離反を招いています。本稿では、このニュースを起点に、急速に進む「AIエージェント」領域におけるビッグテックの囲い込み戦略と、日本企業が直面するベンダー選定・リスク管理の課題について解説します。
AIエージェントの「囲い込み」がもたらす波紋
米国時間2026年1月21日、Meta社はAIエージェント機能を提供するスタートアップ「Manus」を約20億ドル(約3,000億円)で買収すると報じられました。この買収の狙いは明白です。Metaは自社のメッセージングプラットフォーム(WhatsAppやMessenger)やSNS上でのビジネス利用を加速させるため、高度な自律型AIエージェント技術を自社エコシステムに組み込もうとしています。
しかし、CNBCの報道によれば、Manusの既存顧客の一部はこの動きを歓迎していません。むしろ、サービスからの離脱を検討する顧客が出てきています。なぜなら、中立的な立場であらゆるプラットフォームと連携できたツールが、巨大プラットフォーマーの一部となることで、「Meta経済圏」に閉じた仕様へ変更されたり、競合他社のツールとの連携が制限されたりするリスクがあるからです。これは、特定のSaaSやAIツールを業務のコアに据えている企業にとって、事業継続性を揺るがす重大な懸念材料となります。
「機能特化型AI」から「プラットフォーム統合」への潮流
ここ数年のAIトレンドは、単なるチャットボットから、複雑なタスクを自律的に遂行する「AIエージェント」へと移行しています。Manusのような企業は、特定の業務プロセス(例えば、複雑なサプライチェーン管理や高度な顧客対応など)に特化したエージェントを提供し、支持を集めてきました。
一方で、Meta、Google、Microsoftといったビッグテックは、こうした特化型技術を自社の基盤モデル(LLM)やプラットフォームに統合する動きを加速させています。日本企業にとっても、これは対岸の火事ではありません。「便利だから」と導入した革新的なAIスタートアップのツールが、ある日突然、Microsoft Officeの一部になったり、Metaの広告プラットフォーム専用機能になったりすることで、自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)計画が修正を余儀なくされるケースが増えているのです。
日本企業における「ベンダーロックイン」と「はしご外し」のリスク
日本の商習慣において、ITシステムの導入は数年単位の安定稼働を前提とすることが一般的です。一度導入したツールが、買収によってサービス終了したり、方針転換(ピボット)したりすることは、現場の混乱だけでなく、システム連携の再構築という多大なコストを発生させます。
特にAIエージェントは、従来のソフトウェア以上に業務フローへ深く入り込みます。エージェントが「どのデータを参照し、どのような判断ロジックで動くか」がブラックボックス化した状態でベンダーに依存してしまうと、買収などでサービスが変質した際、代替手段への移行が極めて困難になります。今回のManusの既存顧客が感じている「悲観」は、まさに自社の業務プロセスを預けていたパートナーが、コントロール不能な巨人の一部になってしまうことへの恐怖と言えるでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
今回のMetaによる買収劇は、AI技術の成熟過程で避けては通れない業界再編の一幕です。これを踏まえ、日本企業の実務家は以下の3点を意識する必要があります。
1. AIツールの「出口戦略」をあらかじめ描く
スタートアップの革新的なAIツールを導入する際は、「その企業が買収されたり、サービスが停止したりした場合」のコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を持つことが重要です。特定のプロプライエタリ(独自)な仕様に依存しすぎず、可能な限り標準的なデータ形式での入出力を確保しておくことが、リスクヘッジとなります。
2. オープンソースとSaaSのバランスを見極める
すべてをSaaSに頼るのではなく、社内の基幹業務に関わる重要なAIエージェントについては、Llama(Meta発ですがオープンモデルとして公開されているもの)やMistralなどのオープンウェイトモデルを活用し、自社管理下で運用する「オンプレミス(またはプライベートクラウド)回帰」の視点も必要です。これにより、外部環境の変化に左右されない自律性を保つことができます。
3. 「ツール」ではなく「アーキテクチャ」で考える
「Manusというツールを入れる」と考えるのではなく、「AIエージェントという機能を業務にどう組み込むか」というアーキテクチャ視点で設計することが求められます。LangChainなどのオーケストレーション層を挟むことで、バックエンドのAIモデルやサービスが切り替わっても、業務フロー全体への影響を最小限に抑える設計(疎結合な設計)が、今後のAIガバナンスの鍵となります。
