20 1月 2026, 火

AI音楽生成「Suno」の急成長と品質論争──「Pop」か「Slop」か、クリエイティブAIの実用と法的リスク

評価額24.5億ドル(約3,600億円)に達したAI音楽生成サービス「Suno」のCEO、Mikey Shulman氏は、同社の技術を「Slop(粗製乱造された低品質な生成物)」ではなく「Pop(大衆的な創作)」を生み出すものだと主張しています。本稿では、Sunoの事例をもとに、急速に進化する生成AIによるコンテンツ制作の現状と、日本企業がこれを活用する際に直面する「著作権リスク」および「品質ガバナンス」の課題について解説します。

「Suno」が投げかけるクリエイティブAIの二面性

テキストプロンプトからボーカル付きの楽曲を生成できるAIサービス「Suno」は、瞬く間に評価額24.5億ドル(約3,600億円)のユニコーン企業へと成長しました。CEOのMikey Shulman氏は、AI生成コンテンツに対して批判的な文脈で使われる「Slop(スロップ:家畜の餌のような、質の低い大量生産品)」というレッテルを否定し、Sunoは誰もが音楽制作を楽しめる「Pop(ポップ)」なツールであると位置づけています。

この「Pop vs. Slop」の議論は、生成AIの本質的な課題を浮き彫りにしています。技術的には、専門知識がないユーザーでもプロレベルに近い楽曲を数秒で生成できる「創造の民主化」が実現しつつあります。一方で、インターネット上がAIによる低品質なコンテンツで溢れかえるリスクや、学習データおよび生成物の著作権問題という、避けては通れない法的・倫理的な懸念も同時に抱えています。

米国での訴訟リスクと日本の著作権法の「ねじれ」

生成AI活用において、日本企業が最も慎重になるべき点が「著作権」です。SunoやUdioといった音楽生成AI企業は現在、全米レコード協会(RIAA)などから大規模な著作権侵害訴訟を起こされています。学習データに著作物が無許諾で使用されたかどうかが争点となっています。

ここで日本の実務者が理解しておくべきは、日本の著作権法(特に第30条の4)とグローバルスタンダードのギャップです。日本の現行法では、AI開発のための情報解析(学習)において、原則として著作権者の許諾は不要とされています。このため、日本は「機械学習パラダイス」とも呼ばれてきました。

しかし、実務上のリスクは「学習」ではなく「生成・利用」のフェーズにあります。生成された楽曲が既存の楽曲に類似しており、かつ依拠性(元の曲を知っていた、あるいは学習データに含まれていた)が認められれば、日本国内であっても著作権侵害となります。特に「特定のアーティスト風」といったプロンプトを使用した場合、そのリスクは格段に跳ね上がります。

ビジネス活用における「品質」と「ブランド毀損」のリスク

Shulman氏が懸念する「Slop」の問題は、ビジネスの現場でも切実です。AIを使えば、マーケティング動画のBGMや社内イベントの楽曲を安価に大量生産できます。しかし、これらが「どこかで聴いたことがあるような凡庸な曲」や「不自然なノイズが混じった曲」であった場合、企業のブランドイメージを損なう可能性があります。

「とにかく作れる」ことと「ビジネス品質に達している」ことは別問題です。AI生成コンテンツをそのまま外部公開することは、品質管理(QA)の観点からも、著作権侵害のリスク管理(コンプライアンス)の観点からも、依然として高いハードルが存在します。

日本企業のAI活用への示唆

音楽に限らず、画像・動画を含む生成AIコンテンツを日本企業が活用する際、以下の3点を指針とすべきです。

1. 利用用途の明確な線引き(リスクベース・アプローチ)
社内プレゼンやアイデア出しのブレインストーミングなど、クローズドな環境での利用は積極的に進めるべきです。一方で、テレビCMや公式SNSなど、不特定多数の目に触れる商用コンテンツへの利用には慎重な判断が求められます。特に音楽や動画は権利関係が複雑であるため、法務部門を交えたガイドライン策定が必須です。

2. 「生成」ではなく「拡張」のツールとして捉える
Sunoのようなツールを「完成品を出力する機械」として依存するのではなく、クリエイターのインスピレーションを刺激する「拡張ツール」として位置づけるのが現実的です。最終的なアウトプットには必ず人間が介在し、品質チェックと権利確認を行う「Human-in-the-Loop」の体制を崩さないことが、Slop化を防ぐ鍵となります。

3. ベンダーの規約と補償内容の確認
Adobe Fireflyのように、学習データのクリーンさを保証し、著作権侵害訴訟に対する補償を提供する「商用利用特化型」のサービスも登場しています。企業として導入する際は、機能の多寡だけでなく、こうした法的保護(IP Indemnification)が契約に含まれているかを確認することが、経営上のリスクヘッジとして重要です。

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