従来のAIコーディング支援ツール(Copilot)は開発者の生産性を約20%向上させると言われてきましたが、今、その限界を超える「Agentic AI(自律型AIエージェント)」が注目を集めています。単なるコード補完を超え、自律的に課題解決を図る次世代ツールの可能性と、それが日本のレガシーシステム問題にどう寄与するかを解説します。
支援(Copilot)から自律(Agent)へのパラダイムシフト
これまで多くの開発現場で導入が進んできたGitHub Copilotのようなツールは、あくまで「副操縦士(Copilot)」という位置づけでした。人間が指示を出し、AIがコードの一部を補完するこのプロセスは、Profound Logic社の指摘にもある通り、およそ20%程度の生産性向上をもたらすとされています。これは一定の成果ですが、革新的とまでは言い切れない側面もありました。
現在、急速に台頭しているのが「Agentic AI(エージェント型AI)」と呼ばれる概念です。これは、AIが単にコードを書くだけでなく、与えられたゴールに対して「計画立案」「ツールの使用」「デバッグ」「修正」といった一連のプロセスを自律的に実行するものです。開発環境(IDE)の中で、AIがまるで熟練した同僚のように振る舞い、複雑なリファクタリングやテストコードの生成、さらにはシステム全体の整合性チェックまでを担うようになりつつあります。
日本の「2025年の崖」とレガシーモダナイゼーションへのインパクト
今回のニュースの発信元であるProfound Logic社は、IBM i(旧AS/400)などのレガシーシステム刷新に強みを持つ企業です。この文脈は、日本企業にとって極めて重要です。日本では多くの基幹システムがいまだにメインフレームやオフコン上で稼働しており、COBOLやRPGといった言語を扱えるエンジニアの高齢化・退職が深刻な「2025年の崖」問題として顕在化しています。
従来、レガシーコードの解析や現代的な言語への書き換えは、膨大な工数とリスクを伴う作業でした。しかし、Agentic AIの活用により、AIが既存の複雑なスパゲッティコードを読み解き、ドキュメント化し、モダンなアーキテクチャへの移行案を提示・実行する未来が現実味を帯びてきています。人間では数ヶ月かかる解析作業をAIエージェントが短期間で行うことで、塩漬けにされていたシステムのモダナイゼーションが一気に進む可能性があります。
自律型AI導入におけるリスクとガバナンス
一方で、AIに「自律性」を持たせることにはリスクも伴います。AIが独自の判断でコードを変更した結果、意図しないセキュリティホールが生まれたり、既存の業務ロジックを微妙に歪めてしまったりする可能性はゼロではありません。特に品質管理に厳しい日本の商習慣において、「AIが勝手にやったこと」は許容され難いでしょう。
したがって、Agentic AIを導入する際は、「Human-in-the-Loop(人間がループの中にいる)」の原則を崩さないことが不可欠です。AIエージェントはあくまで実行部隊であり、最終的なコードレビューやアーキテクチャの承認権限は人間が持つべきです。また、企業としては、AIが生成したコードの著作権や責任の所在に関するガイドラインを策定し、開発者が安心してツールを使える環境を整える必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の動向を踏まえ、日本のビジネスリーダーやエンジニアリングマネージャーは以下の3点を意識すべきです。
1. エンジニアの役割定義の変更:
開発者の役割は「コードを書くこと」から、「AIエージェントを指揮し、成果物を評価する(Architect & Reviewer)」ことへとシフトします。若手エンジニアに対しては、コーディングスキル以上に、システム全体を俯瞰する設計力やレビュー能力の育成を急ぐ必要があります。
2. レガシー脱却の切り札としての活用:
ブラックボックス化した基幹システムの刷新において、人海戦術はもはや限界です。Agentic AIを、新規開発だけでなく「技術的負債の返済」に特化して適用することを検討してください。特にレガシー言語の解析において、AIは強力な武器となります。
3. 失敗を許容できるサンドボックス環境の整備:
自律型AIの実力を試すには、本番環境から切り離された安全なサンドボックス環境が必要です。セキュリティリスクを担保した上で、AIエージェントに自由にタスクを行わせ、その能力と限界を自社データで検証するPoC(概念実証)を早期に実施することが、競争力維持の鍵となります。
