BroadcomのAI半導体売上が急増し、2026年に向けたインフラ構築の「次のフェーズ」への移行が鮮明になっています。単なるGPU不足の話題から、ネットワーク帯域やプライベートクラウド活用へと焦点が移る中、日本のビジネスリーダーが押さえておくべきインフラ戦略とガバナンスの視点を解説します。
AIインフラ投資は「GPU確保」から「通信と統合」のフェーズへ
米半導体大手Broadcom(ブロードコム)の最新の決算発表は、生成AIブームが一時的な熱狂を超え、産業としての「足腰」を固める段階に入ったことを如実に示しています。同社の第4四半期売上高は前年同期比28%増の180億ドルに達し、そのうちAI関連半導体の売上は82億ドルを占めました。これは、AIモデルの開発・運用のための投資が継続していることの証左ですが、注目すべきはその中身の変化です。
これまでAIインフラといえばNVIDIAのGPUばかりが注目されてきました。しかし、Broadcomの好調さは、GPU同士をつなぐ「ネットワーキング(通信)」や、特定のワークロードに最適化された「カスタムシリコン(ASIC)」の重要性が高まっていることを示しています。大規模言語モデル(LLM)のパラメータ数が増大するにつれ、計算処理そのものよりも、膨大なデータをチップ間で移動させる通信速度がボトルネックになりつつあるためです。
VMware統合に見る「オンプレミス回帰」と日本企業への適合性
Broadcomの戦略の中で、日本企業にとって特に重要なのがVMwareの統合です。多くの国内大企業が基幹システムの仮想化基盤としてVMwareを採用していますが、Broadcomはこの顧客基盤に対し、オンプレミス環境で生成AIを動かす「Private AI」のアプローチを強化しています。
日本では、個人情報保護法や各業界のガイドライン、あるいは社内規定により、機密データをパブリッククラウド(OpenAIのAPIやAWS、Google Cloudなど)に送信することに慎重な組織が少なくありません。BroadcomとVMwareの動きは、こうした「データを外に出せない」企業に対し、自社のデータセンター内でセキュアにLLMをファインチューニング(微調整)したり、RAG(検索拡張生成)システムを構築したりする現実的な選択肢を提供します。
パブリッククラウド一辺倒ではなく、機密性の高い処理はオンプレミスで、汎用的な処理はクラウドで行う「ハイブリッドAI」の環境が、2026年に向けて標準的なアーキテクチャになっていくと考えられます。
カスタムシリコンとコスト最適化の潮流
また、BroadcomはGoogleやMetaなどのハイパースケーラー向けに、カスタムAIチップ(ASIC)を設計・製造しています。これは、汎用的なGPUを使うよりも、特定のAI処理に特化したチップを使ったほうが、電力効率とコストパフォーマンスが良いという判断が働いているためです。
日本企業が自社でチップを設計することは稀ですが、このトレンドは「推論コストの低下」という形で恩恵をもたらします。クラウドベンダー各社が独自チップへの移行を進めることで、長期的にはAPI利用料やインスタンス利用料の適正化が進むと予想されます。エンジニアやプロダクトマネージャーは、特定のハードウェアにロックインされないよう、MLOps(機械学習基盤の運用)の抽象度を高めておく必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
Broadcomの動向と世界のインフラトレンドを踏まえ、日本の実務者は以下の3点を意識して意思決定を行うべきです。
1. 「データの重力」を考慮したインフラ選定
すべてのデータをクラウドに上げるのが正解とは限りません。特に金融、医療、製造業のIP(知的財産)に関わるデータについては、VMwareなどの既存資産を活用したオンプレミスまたはプライベートクラウドでのAI処理を検討の遡上に載せるべきです。セキュリティとガバナンスを担保しつつ、AIの恩恵を享受する現実解となります。
2. 推論コストを見据えたROI設計
現在は「開発・学習」フェーズの投資が目立ちますが、今後は作られたモデルを動かす「推論」フェーズのコストが経営を圧迫します。ハードウェアの進化(通信高速化や省電力チップ)を見越して、サービス開始当初の赤字を許容しつつ、2〜3年後のコスト構造がどう変化するかをシミュレーションに組み込む必要があります。
3. ネットワークレイヤーへの関心
大規模な社内AIシステムを構築する場合、サーバーのスペックだけでなく、社内ネットワークの帯域がボトルネックになるケースが増えています。特にRAGやマルチモーダル(画像や動画を含む)AIを導入する場合、情報システム部門と連携し、AIトラフィックに耐えうるネットワーク設計を早期に見直すことがプロジェクト成功の鍵となります。
