ウォール街の投資家たちが求めていたのは、AIの夢物語ではなく実益でした。アルファベット(Google)が自社のAIリソースを他社へ積極的に提供し始めたことは、AIビジネスが「開発競争」から「インフラとしての活用」のフェーズへ移行したことを明確に示しています。
実益を求め始めた市場とプラットフォーマーの回答
2024年から2025年にかけて、株式市場はAIに対してよりシビアな視線を向けるようになりました。かつては「AI」という単語だけで株価が跳ね上がる局面もありましたが、現在、投資家たちが求めているのは具体的な収益モデルと、社会実装の規模感です。
Axiosの記事が指摘するように、アルファベット(Googleの親会社)が投資家の期待に応えたのは、自社サービスだけでAIを囲い込むのではなく、その強大な計算資源とモデル(Geminiなど)という「馬力(Horsepower)」を他社に貸し出す戦略を鮮明にしたからです。これは、AIモデルそのものの性能競争に加え、それをいかに安全かつ安定的に企業のワークフローに組み込ませるかという「プラットフォーム競争」が本格化したことを意味します。
日本企業が直面する「自前主義」の限界と転換
このグローバルの潮流は、日本のAI開発現場にも重要な問いを投げかけています。日本の製造業や大手SIerには、伝統的に「技術を自社でコントロールしたい」という強い志向(自前主義)があります。しかし、生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)の基盤開発には、莫大な計算リソースとトップレベルの人材が必要です。
アルファベットのようなテックジャイアントが「インフラとしてのAI」を整備し、Appleなどの他社プレイヤーとも連携を深める中、日本企業がゼロから基盤モデルを構築することの経済合理性は薄れつつあります。むしろ、これらグローバルな「巨人の肩」をいかに賢く利用し、自社の独自データやドメイン知識(業務知識)と組み合わせるかという「アプリケーション層」での勝負が、現実的な勝ち筋となります。
依存のリスクとガバナンスの重要性
一方で、巨大テック企業のAI基盤に依存することにはリスクも伴います。APIの仕様変更、価格改定、そしてサービス提供地域のポリシー変更などが、自社ビジネスに直撃する「ベンダーロックイン」の問題です。
また、日本国内の法規制や商習慣の観点からは、データプライバシーと著作権への配慮が不可欠です。改正個人情報保護法やAI事業者ガイドラインに基づき、顧客データが学習に利用されない設定(オプトアウト)の確認や、データが物理的にどこのリージョン(国・地域)で処理されるかの把握は、エンジニアだけでなく法務・コンプライアンス部門を含めた組織的な確認事項となります。
日本企業のAI活用への示唆
以上の動向を踏まえ、日本の意思決定者や実務者が意識すべきポイントを整理します。
- 「作る」から「使う」への意識改革: 汎用的な基盤モデルはテックジャイアントが提供する安価で高性能なAPIを活用し、自社のリソースは「ファインチューニング(追加学習)」や「RAG(検索拡張生成)」といった、自社特有の価値を生む領域に集中させるべきです。
- マルチモデル戦略の検討: 特定の一社に依存しすぎないよう、GoogleのGemini、OpenAIのGPTシリーズ、そして日本発のモデルなどを切り替えて使えるような、疎結合なシステム設計(MLOpsの整備)を進めることが、中長期的なリスクヘッジになります。
- 実務適用のスピード重視: 投資家がアルファベットに実益を求めたように、社内のAIプロジェクトもPoC(概念実証)疲れを避け、小さくても「業務効率化」や「顧客体験向上」に直結する成果を早期に出すことが求められます。
- AIガバナンスの確立: 外部APIを利用する際は、入力データがどのように扱われるかを契約レベルで確認し、社内規定に落とし込むことが、持続可能なAI活用の前提条件となります。
