23 1月 2026, 金

「守りのAI」が変えるセキュリティ運用:フォレンジックAIと自律型SOCへの転換点

サイバー攻撃の高度化とセキュリティ人材の不足という二重の課題に対し、AIによる自動化は「あれば便利」な機能から「必須」のインフラへと変わりつつあります。イスラエルのスタートアップIntezerなどの事例を端緒に、過多なアラート(ノイズ)を削減し、脅威の分析・判定を自律的に行う「フォレンジックAI」の潮流と、日本企業が直面するセキュリティ運用の課題解決策について解説します。

AIによる「調査・分析」の自動化が進む背景

サイバーセキュリティの領域では、長らく「防御」と「検知」にAI(機械学習)が活用されてきました。しかし、近年のトレンドは、その後のプロセスである「調査(フォレンジック)」と「対処」の自動化へとシフトしています。元記事で取り上げられているイスラエルのIntezer社が提唱する「自律型セキュリティオペレーション」は、まさにこの流れを象徴するものです。

多くの企業が導入しているEDR(エンドポイント検知・対応)やSIEM(セキュリティ情報イベント管理)などのツールは、日々膨大な数のアラートを発報します。しかし、その多くは誤検知(フォールスポジティブ)や、緊急度の低いノイズです。現場のセキュリティ担当者(SOCアナリスト)は、これら一つひとつを目視で確認し、ログを解析し、真の脅威かどうかを判断する作業に忙殺されています。これがいわゆる「アラート疲労」です。

「フォレンジックAI」のアプローチは、人間が行っていた「証拠集め」と「判定」のプロセスを模倣・自動化するものです。不審なファイルやURLをサンドボックス(隔離環境)で実行し、メモリ上の挙動やコードの遺伝子(コード再利用の痕跡)を解析することで、既知のマルウェアとの関連性を特定します。これにより、人間は「本当に危険なアラート」への対応のみに集中できるようになります。

「AI軍拡競争」と日本企業の現状

セキュリティ分野でAI活用が急がれるもう一つの理由は、攻撃者側もまたAIを活用し始めているという「AI軍拡競争」の現実にあります。生成AIやLLM(大規模言語モデル)の登場により、攻撃者は極めて自然な日本語のフィッシングメールを作成したり、脆弱性を突くコードを高速に生成したりすることが可能になりました。

この状況下において、人手による対応には限界があります。特に日本国内においては、経済産業省などが指摘するように、高度なスキルを持つセキュリティ人材の不足が慢性的な課題となっています。多くの日本企業では、少人数の担当者が兼務でセキュリティを見ているか、外部のMSSP(マネージドセキュリティサービスプロバイダ)に依存しているのが実情です。

日本企業にとって、AIによるセキュリティ運用の自動化は、単なる業務効率化ではありません。「24時間365日、疲れることなく初動分析を行う熟練アナリスト」をシステムとして確保することを意味し、人材不足という構造的な弱点を補完する重要な経営戦略となり得ます。

導入におけるリスクとガバナンスの視点

一方で、セキュリティ運用へのAI導入には留意すべきリスクも存在します。最大の懸念は「AIの判断に対するブラックボックス化」です。もしAIが重大な脅威を見逃した場合(フォールスネガティブ)、あるいは無害な業務プロセスを遮断してしまった場合、企業はその理由を説明できなければなりません。

日本の商習慣において、システム障害や業務停止に対する説明責任は厳しく問われます。したがって、AIを導入する際は、単に「自動でやってくれる」ツールを選ぶのではなく、AIが「なぜその判定を下したのか」という根拠(Explainability:説明可能性)を明確に提示できるソリューションを選定する必要があります。また、最終的な意思決定プロセスに人間をどのように介在させるか(Human-in-the-loop)という運用設計も、ガバナンスの観点から不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

グローバルなAIセキュリティの動向と日本の実情を踏まえると、以下の3点が実務上の重要な指針となります。

  • 「検知」から「自動判定」への投資シフト:
    アラートを増やすツールではなく、アラートを「減らす(選別する)」技術への投資が急務です。SOC(Security Operation Center)の負荷軽減は、結果として重大インシデントの見逃し防止に直結します。
  • AIを「新人アナリスト」として扱う運用設計:
    AIを完全無欠な魔法の杖としてではなく、「高速だが監督が必要な新人アナリスト」として組織に組み込む視点が必要です。AIの判定結果を定期的に人間が監査するプロセスを設けることで、精度と信頼性を担保できます。
  • 機微情報の取り扱いに関する規程整備:
    クラウドベースのAI解析サービスを利用する場合、解析のために社内のログや不審なファイルを外部へ送信することになります。これが自社のセキュリティポリシーや秘密保持契約に抵触しないか、法務・コンプライアンス部門と連携して事前に整理しておく必要があります。

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