23 1月 2026, 金

エージェンティックAI(Agentic AI)が変えるセキュリティ運用:Torqの大型調達が示唆する「自律型SOC」の未来

セキュリティ自動化プラットフォームを提供するTorqが1億4,000万ドルの資金調達を実施し、評価額が12億ドルに達したことは、サイバーセキュリティ領域における「AIエージェント」の実用化が加速していることを示しています。単なるチャットボットや定型的な自動化を超え、AIが自律的にタスクを遂行する「エージェンティックAI」の潮流と、日本のセキュリティ現場における活用の可能性について解説します。

セキュリティ運用のパラダイムシフト:自動化から「自律化」へ

セキュリティ運用の自動化(Hyperautomation)を手掛けるTorqが、シリーズDラウンドで1億4,000万ドル(約200億円規模)を調達し、ユニコーン企業の評価を得たというニュースは、単なる一企業の成功譚以上の意味を持っています。この投資の背景にあるのは、**「エージェンティックAI(Agentic AI)」**と呼ばれる、自律的に思考し行動するAIモデルの急速な普及です。

これまで、企業のセキュリティ対策本部(SOC)では、SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)と呼ばれるツールを用いて、定型的な対応手順(プレイブック)を自動化してきました。しかし、近年急増するサイバー攻撃や複雑なアラートに対し、固定されたルールベースの自動化だけでは対応しきれないのが実情です。ここに生成AI技術を応用したAIエージェントが導入されることで、AIが文脈を理解し、調査、判断、そして対処までを自律的または半自律的に行う「AI SOC」の時代が到来しつつあります。

「エージェンティックAI」とは何か、なぜ注目されるのか

現在、生成AIの活用フェーズは、人間がチャットで質問して答えを得る「対話型」から、AIに目標を与えてタスクを完遂させる「エージェント型」へと移行しています。

エージェンティックAIの特徴は、以下の点にあります。

  • 推論と計画: 曖昧な指示や複雑な状況に対し、AI自身が手順(思考の連鎖)を組み立てる。
  • ツールの利用: 必要に応じて外部のセキュリティツールやデータベースにアクセスし、情報を取得・操作する。
  • 自律的な実行: 人間の介入を最小限にしつつ、リスクが高い判断が必要な場合のみ人間に承認を求める。

Torqの成長要因として「AIエージェントの採用」が挙げられている通り、膨大なログ解析や初期対応をAIエージェントに任せることで、人間のアナリストは高度な脅威分析や戦略立案に集中できるようになります。

日本企業における課題とAIエージェントの適合性

日本国内に目を向けると、サイバーセキュリティ人材の不足は深刻な経営課題です。24時間365日の監視体制を維持することは多くの組織にとって困難であり、担当者の「アラート疲労(大量の警告通知による感覚麻痺)」も問題視されています。

この文脈において、AIエージェントは「不足する熟練エンジニアの代替または拡張」として極めて高い親和性を持ちます。特に、日本語の自然言語処理能力が向上した現在のLLM(大規模言語モデル)を活用すれば、過去の対応履歴や日本語のマニュアルを参照しながら、AIが自律的に一次対応を行うことも現実的になりつつあります。

一方で、リスクも存在します。AIが誤った判断(ハルシネーション)に基づいてシステムを遮断してしまえば、業務停止などの損害につながりかねません。日本の商習慣や組織文化においては、AIにすべての権限を委譲するのではなく、「Human-in-the-loop(人間がループの中にいる状態)」を維持し、最終的な意思決定や監査可能なログの保存を徹底するガバナンス設計が不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のTorqの事例を含むグローバルな動向から、日本の実務者が押さえるべきポイントは以下の通りです。

  • 「チャット」から「エージェント」への視点転換:
    業務効率化の議論を「AIに何を聞くか」から「AIにどのタスクを任せるか」へシフトさせる必要があります。特にセキュリティやインフラ運用など、手順が明確かつ判断スピードが求められる領域は、エージェント化の恩恵を最も受けやすい分野です。
  • 既存の自動化(RPA/SOAR)とAIの融合:
    既存の自動化ツールを捨て去る必要はありません。定型業務は従来のルールベースで処理し、例外対応や高度な判断が必要な部分にAIエージェントを組み込む「ハイブリッドな運用」が、コストと信頼性のバランスにおいて現実的な解となります。
  • AIガバナンスと責任分界点の明確化:
    AIエージェントが自律的に行動する場合、「どこまで勝手にやっていいか」の権限管理が重要になります。セキュリティ領域であれば、「情報の収集と分析まではAIが自律的に行い、通信遮断などの変更操作は人間の承認を必須とする」といった、リスクベースの権限設計を早期に策定することが推奨されます。

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