PerplexityやChatGPT Search、GoogleのGeminiなど、AIがユーザーの問いに直接回答を生成する「アンサーエンジン」の台頭により、デジタルマーケティングの前提が変わりつつあります。米国では既に「AEO(Answer Engine Optimization)」を標榜するサービスが登場し始めました。本記事では、検索体験の変化が日本企業の広報・マーケティング戦略に与える影響と、実務的な対応策について解説します。
アンサーエンジンの台頭とSEOの限界
従来の検索エンジン(SEO)は、キーワードに基づいて関連性の高いWebサイトへのリンクをリストアップし、ユーザーはその中から情報を探し出すプロセスを経ていました。しかし、Perplexity AIやChatGPT Search、そしてGoogleのAI Overview(旧SGE)に代表される「アンサーエンジン」は、複数のソースから情報を統合・要約し、ユーザーに対して直接的な「回答」を提示します。
この変化は、ユーザーにとっては利便性の向上を意味しますが、企業にとっては「Webサイトへの流入減少」というリスクをはらんでいます。ユーザーが検索結果画面(またはチャット画面)で満足してしまえば、リンクをクリックして企業のオウンドメディアや製品ページを訪れる必要がなくなるからです。
米国フロリダ州のニュースメディアなどでも報じられている通り、すでに現地では従来のSEOエージェンシーだけでなく、スタートアップ向けの「AEO(Answer Engine Optimization:アンサーエンジン最適化)」を専門とするサービスが登場し始めています。これは一過性の流行ではなく、検索体験の根本的なシフトを示唆しています。
AEO(アンサーエンジン最適化)とは何か
AEOとは、AIモデルが生成する回答の中に、自社のブランドや製品、情報を「信頼できるソース」として引用・参照させるための最適化手法を指します。従来のSEOが「検索順位の上位表示」を目指すものだとすれば、AEOは「AIによる推奨・引用」を目指すものです。
具体的には、以下のような要素が重要視されます。
第一に、情報の構造化と明瞭性です。大規模言語モデル(LLM)は、論理的に整理されたテキストを好みます。Q&A形式や明確な見出し構造、Schema.orgなどの構造化データを用いたマークアップは、AIがコンテンツの内容を正しく理解するのを助けます。
第二に、E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)の強化です。ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクを低減するため、主要なAIモデルは信頼性の高いドメインや、一次情報を優先的に参照する傾向にあります。業界団体からの被リンクや、専門家による監修などの「権威付け」は、SEO以上に重要になる可能性があります。
日本企業特有の課題:PDFと画像化されたテキスト
日本企業がAEOを意識する際、大きな障壁となるのが「情報のPDF化・画像化」という商習慣です。日本の企業の公式サイトでは、重要なプレスリリース、仕様書、あるいはキャンペーン詳細がPDFファイルや、文字が画像として埋め込まれたバナー画像のみで公開されているケースが散見されます。
近年のマルチモーダルAIは画像の読み取りも可能にしていますが、情報の抽出精度や検索インデックスへの登録のしやすさという点では、依然としてHTMLテキストが圧倒的に有利です。AIに正しく自社製品の仕様や価格、強みを認識してもらうためには、PDFに依存した情報発信を見直し、マシンリーダブル(機械判読可能)な形式でWeb上に公開することが、最初の一歩となります。
AEOのリスクと限界
一方で、AEOには特有のリスクもあります。最大の問題は「ブラックボックス化」です。従来のSEOであれば、Google Search Consoleなどで検索クエリや流入数をある程度正確に把握できましたが、ChatGPTやPerplexityの中でどのように自社が言及されたかを網羅的に追跡するツールはまだ発展途上です。
また、AIが誤った情報を自信満々に回答してしまうリスクもゼロではありません。自社の製品についてAIが誤った説明をしている場合、それを修正させるための確立された「申請フォーム」のようなものは、現時点では限定的です。そのため、公式サイトで正確かつ簡潔な情報を発信し続けることが、唯一の防御策となります。
日本企業のAI活用への示唆
急速に進化するアンサーエンジンの動向を踏まえ、日本の経営層やマーケティング担当者、エンジニアは以下の点に留意して実務を進めるべきです。
1. 情報資産の「テキストデータ化」を急ぐ
カタログや広報資料がPDFや画像のみになっていないか再点検してください。AIが学習・参照しやすいHTML形式での情報発信は、将来的なAIエージェントによる自動購買やリサーチへの対応にも直結します。
2. 「ゼロクリック」を前提としたKPIの再設計
Webサイトへの流入数(セッション数)だけを追う時代は終わりつつあります。「AIによる回答でブランド名が挙げられたか」「ポジティブな文脈で引用されたか」といった、シェア・オブ・ボイス(Share of Voice)に近い指標を重視する必要があります。
3. 一次情報のハブとしての自社サイト強化
AIはインターネット上の情報を要約しますが、その「元ネタ」となる一次情報は依然として価値を持ちます。他社の引用ではなく、自社独自のデータ、事例、見解を発信し、「AIが引用したくなる情報源」としての地位を確立することが、中長期的な競争優位につながります。
米国でAEOサービスが立ち上がり始めた事実は、今後日本でも同様のニーズが顕在化することを示唆しています。今のうちから情報発信の構造を見直すことは、AI時代のデジタル戦略における強固な基盤となるでしょう。
