CES 2026に向けた新たなトレンドとして、フィギュアやコレクティブ・アイテムにAIを搭載し「命を吹き込む」試みが注目されています。本稿では、画面上のチャットボットから物理的な「モノ」へと拡張するAIの現在地を読み解き、キャラクターIP大国である日本企業が直面する機会と、実装における技術的・法的な課題について解説します。
スクリーンを飛び出す「エンボディドAI」の潮流
生成AIブームの初期、私たちの関心は主にテキスト生成や画面上のチャットボットに集中していました。しかし、CES 2026に向けたスタートアップの動向を見ると、AIを物理的な筐体に搭載する「エンボディドAI(身体性を持つAI)」への揺り戻しが始まっていることが分かります。元記事で触れられているように、Funko PopやAmiiboのようなコレクティブ・アイテム(収集用フィギュア)にAIを統合し、対話機能を持たせる試みはその一例です。
これは単なる「おしゃべり人形」の再発明ではありません。大規模言語モデル(LLM)による高度な文脈理解と、音声合成技術、そしてユーザーの感情を読み取るマルチモーダルな技術が組み合わさることで、ユーザーごとにパーソナライズされた体験を提供する新たなハードウェア・プラットフォームへの進化を意味しています。
日本の「推し活」文化とIPビジネスの親和性
このトレンドは、世界でも有数のIP(知的財産)大国である日本にとって極めて重要な意味を持ちます。アニメ、マンガ、ゲームのキャラクターグッズ市場は成熟しており、近年では「推し活」と呼ばれる、特定のキャラクターやアイドルを深く応援する消費行動が一般化しています。
従来のフィギュアは視覚的な鑑賞が主目的でしたが、AIの搭載により「推しと会話する」「日々の生活を共有する」という新たな価値が付加されます。これは、日本のコンテンツ産業が長年模索してきた「デジタルとリアルの融合」を加速させる起爆剤になり得ます。既存のIPホルダーや玩具メーカーにとって、単発の商品販売モデルから、対話サービスのサブスクリプションなど、継続的な収益モデル(LTVの向上)へ転換するチャンスでもあります。
実装における技術的課題:エッジAIとレイテンシ
しかし、プロダクト担当者やエンジニアが直視すべき課題は山積しています。最大の問題は「推論の場所」です。高度な会話を実現するためにクラウド上の巨大なLLMを使用すれば、通信による遅延(レイテンシ)が発生し、自然な会話のテンポが損なわれます。また、常にクラウドに接続することは、サーバーコストの増大や通信環境への依存を招きます。
そのため、デバイス側で推論処理を行う「オンデバイスAI(エッジAI)」や、特定タスクに特化した小規模言語モデル(SLM)の活用が現実的な解となります。限られたバッテリー容量と排熱制約の中で、いかに賢く振る舞わせるかが、技術的な差別化要因となるでしょう。
ガバナンスとブランド毀損リスク
日本企業が最も慎重になるべきは、AIガバナンスとブランドセーフティです。生成AI特有の「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」や、不適切な発言のリスクは、キャラクタービジネスにおいて致命的です。国民的キャラクターが政治的な発言をしたり、世界観を壊すような暴言を吐いたりすることは許されません。
これを防ぐためには、RAG(検索拡張生成)による知識の制限や、ガードレール(出力制御)の徹底的なチューニングが必要です。また、版権元(ライセンサー)との契約において、AIによる生成物がキャラクターの同一性を保持できるかという新たな法的論点も浮上します。ユーザーのプライバシー保護も重要であり、特に家庭内に設置されるデバイスが会話を常時聞き取ることへの抵抗感や、改正個人情報保護法への準拠は必須の検討事項です。
日本企業のAI活用への示唆
以上の動向を踏まえ、日本企業がとるべきアクションを以下に整理します。
1. IPとAIのハイブリッド戦略
単に海外製のAIモデルを導入するのではなく、自社が保有または提携するIPの「人格(ペルソナ)」を学習・調整した特化型モデルの開発を検討してください。これが最大の参入障壁となります。
2. 「安心・安全」を競争力にする
日本市場では品質と安全性への要求が非常に高いです。ハルシネーション対策やプライバシー保護機能(物理的なマイクオフスイッチの実装や、データ処理の透明性など)を製品仕様の中心に据え、信頼性をブランド価値として訴求することが重要です。
3. ハードウェアとサービスの分離設計
フィギュアそのものの価値(造形美)は維持しつつ、AIの頭脳部分はアップデート可能な設計(スマホ連携やモジュール交換式など)にすることで、技術の陳腐化を防ぎ、長く愛されるプロダクトを目指すべきです。
