22 1月 2026, 木

「Agentic Commerce」の到来:MastercardとFiservの提携から読み解く、AIが「決済」主体となる未来

MastercardとFiservが、AIエージェントによる商取引(Agentic Commerce)を支えるための新たな枠組み作りで提携を発表しました。生成AIが単なる「対話相手」から、人間の代わりに決済や契約を執行する「自律的な経済主体」へと進化する中、企業に求められるインフラとガバナンスについて解説します。

「Agentic Commerce」とは何か:対話から実行へ

生成AIブームの第1フェーズが「情報の検索と要約」、第2フェーズが「コンテンツの生成」であったとすれば、現在急速に立ち上がりつつある第3フェーズは「自律的なアクションの実行」です。これを象徴する概念が「Agentic AI(自律型AIエージェント)」であり、その中でも特に商取引や決済に焦点を当てた動きが「Agentic Commerce(エージェンティック・コマース)」と呼ばれています。

これまで私たちは、ウェブサイトやアプリを通じて自ら商品を検索し、決済ボタンを押していました。しかし、Agentic Commerceの世界では、ユーザーの「来週の出張の手配をしておいて」という曖昧な指示に基づき、AIエージェントがフライトの検索、ホテルの選定、そして最終的な「決済」までを自律的に完結させます。

MastercardとFiservの提携は、まさにこの未来を見据えたものです。AIが独自の判断で支払いを行う際、そのAIが正当な権限を持っているか、決済データがセキュアであるかを担保するための「AIのための決済レール」を構築しようとしています。

AIに「財布」を持たせる際のリスクと技術的課題

AIが商取引の主体となることは、技術的な利便性を高める一方で、深刻なガバナンス上の課題を突きつけます。最大の課題は「同一性と権限の管理」です。

「その注文を行ったのは本当にユーザーのAIなのか、それとも悪意あるハッキングされたAIなのか?」をどのように識別するのでしょうか。従来のID/パスワードや生体認証は人間を対象としていましたが、AIエージェント間の取引には、デバイス認証やトークン技術を応用した新しい認証プロトコルが必要となります。

また、ハルシネーション(AIの誤認)による誤発注のリスクも無視できません。AIが誤って大量の商品を発注した場合、その法的責任はベンダーにあるのか、ユーザーにあるのか、それともモデル開発者にあるのか。商習慣と法規制の整備が追いついていないのが現状です。

日本企業のAI活用への示唆

日本国内においても、労働人口の減少に伴い、バックオフィス業務や購買プロセスの自動化ニーズは極めて高くなっています。今回のニュースは、日本企業に対して以下の3つの重要な視点を示唆しています。

1. B2B購買・調達プロセスの自動化

日本企業における「Agentic Commerce」の初期導入は、消費者向け(B2C)よりも、社内の備品購入やSaaS契約の更新といったB2B領域から始まる可能性が高いでしょう。AIエージェントが在庫状況を監視し、規定の予算内で自動発注を行う仕組みは、人手不足解消の切り札となり得ます。

2. 「機械が読む」ことを前提としたUI/UXへの転換

ECサイトやサービスプラットフォームを持つ企業は、人間向けのインターフェースだけでなく、AIエージェントが情報を取得し(スクレイピングやAPI連携)、決済を実行しやすい構造を整備する必要があります。APIの公開や構造化データの提供は、将来的な売上拡大の鍵となります。

3. ガバナンスと責任分界点の明確化

AIに決済権限を委譲する場合、日本企業の厳格な稟議・承認フローとどう整合させるかが課題です。「一定金額まではAIに任せ、それを超える場合は人間の承認を挟む(Human-in-the-loop)」といったハイブリッドなガバナンス設計が、実務的な着地点となるでしょう。

AIは「賢いチャットボット」から「信頼できる実務代行者」へと進化しようとしています。この変化を単なる海外のトレンドとして傍観するのではなく、自社の業務プロセスやサービス設計にどう組み込むか、今から検討を開始すべき段階に来ています。

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