世界的な広告・通信グループであるHavasが、CES 2026にてグローバルLLMポータル「AVA」の立ち上げを発表しました。この動きは、企業における生成AI活用が「個別のツール利用」から「セキュアで統合された基盤(ポータル)による管理」へと移行していることを強く示唆しています。本稿では、この発表を端緒に、日本企業が直面するAIガバナンスの課題と、複数のLLMを組織的に使いこなすための戦略について解説します。
「モデルアグノスティック」な環境構築へのシフト
Havasが発表した「AVA」は、世界中の主要なLLM(大規模言語モデル)へのセキュアなアクセスを一元化するポータルであるとされています。ここから読み取れる重要なトレンドは、企業が特定のAIモデル(例えばGPT-4のみ)に依存するリスクを避け、用途に応じて最適なモデルを選択できる「モデルアグノスティック(特定のモデルに縛られない)」な環境を求めているという点です。
生成AIの進化は速く、OpenAI、Google、Anthropic、そしてMetaなどのオープンソースモデルが激しく性能を競い合っています。日本企業においても、文書要約にはClaude、論理推論にはGPT-4、クリエイティブな発想にはGeminiといった使い分けや、日本語処理に特化した国産モデルの併用が現実的なニーズとなりつつあります。Havasの事例は、これらをバラバラに契約・利用するのではなく、統一されたインターフェース(ポータル)を通じて提供することの重要性を示しています。
シャドーAIの防止とナレッジの資産化
企業専用のLLMポータルを構築する最大のメリットは、セキュリティとガバナンスの強化にあります。社員が個人のアカウントで無料のAIサービスを利用する「シャドーAI(野良AI)」は、機密情報の漏洩や入力データの学習利用といったリスクを孕んでいます。「AVA」のような中央集権的なポータルを通すことで、企業は入力データの学習利用を確実にオプトアウトし、エンタープライズレベルのセキュリティを担保できます。
また、日本企業で特に課題となる「業務の属人化」を防ぐ観点でも、ポータル化は有効です。優秀な社員が作成した効果的なプロンプト(指示文)をポータル内でテンプレートとして共有できれば、組織全体の生産性を底上げできます。AIとの対話履歴をログとして管理・分析することで、どの部署でどのような活用が進んでいるかを可視化し、適切な投資判断につなげることも可能になります。
導入に伴うリスクと日本企業特有のハードル
一方で、こうした統合ポータルの構築・運用にはコストと技術的な複雑さが伴います。複数のLLM APIを統合管理するための開発費や、トークン課金の管理、そして各モデルのアップデートへの追従が必要です。また、過度に厳格なガバナンスを適用しすぎると、UI/UXが損なわれ、結局社員が使いやすい個人のツールに戻ってしまうという本末転倒な事態も起こり得ます。
日本の商習慣においては、「AIの回答内容の正確性」に対する要求レベルが非常に高い傾向があります。ポータルを導入する際は、AIがハルシネーション(もっともらしい嘘)を起こす可能性があることを前提に、あくまで「支援ツール」であるという位置づけを社内規定や研修で徹底する必要があります。また、稟議書や日報など日本独自のフォーマットに対応させるためには、単なる翻訳ではない、業務フローに深く組み込んだカスタマイズ(RAG:検索拡張生成の活用など)が不可欠です。
日本企業のAI活用への示唆
Havasの取り組みは、今後の企業AI活用のスタンダードを示しています。日本企業がここから得られる実務的な示唆は以下の通りです。
1. 「単一モデル依存」からの脱却計画を持つ
特定のベンダーにロックインされるリスクを考慮し、将来的に複数のモデルを差し替えたり併用したりできるアーキテクチャ(APIゲートウェイの整備など)を検討すべきです。
2. 「禁止」から「管理された利用」への転換
セキュリティを理由にAI利用を一律禁止するのではなく、安全なサンドボックス環境や社内ポータルを提供することで、イノベーションの芽を摘まずにリスクをコントロールする姿勢が求められます。
3. ガバナンスとUXの両立
セキュリティ機能だけでなく、社内ナレッジベースとの連携や、日本語特有の言い回しに対応したプロンプトテンプレートの充実など、現場の社員が「使いたくなる」付加価値をポータルに持たせることが、定着の鍵となります。
