Lenovoが新たなAIアシスタント「Qira」を発表し、Microsoft CopilotやGoogle Geminiへの対抗軸として「アンビエント・インテリジェンス(環境知能)」を提唱しています。クラウド依存から脱却し、ハードウェアと深く統合されたAIの台頭は、日本企業のセキュリティ基準や端末調達戦略にどのような影響を与えるのか。最新動向をもとに解説します。
「チャットボット」を超えたAIの新たな形
生成AIの利用といえば、これまではブラウザ上のチャットウィンドウにプロンプト(指示)を入力し、回答を得るスタイルが主流でした。しかし、Lenovoが発表した「Qira」のような新しいAIアシスタントは、「アンビエント・インテリジェンス(環境知能)」という概念を前面に打ち出しています。
アンビエント・インテリジェンスとは、ユーザーが明示的に指示しなくとも、AIがユーザーの行動や文脈、画面上の情報をバックグラウンドで理解し、先回りしてサポートする仕組みを指します。例えば、会議中の発言から自動的にToDoリストを作成したり、作業中のドキュメントに関連する社内資料を即座に提示したりといった動作です。
これは、AIが単なる「ツール」から、OSやハードウェアと一体化した「インフラ」へと進化していることを意味します。
オンデバイスAIがもたらすセキュリティ上の利点
CopilotやGeminiといった巨大プラットフォーマーのAIに対し、ハードウェアメーカーであるLenovoが独自のアシスタントを展開する背景には、「オンデバイスAI(エッジAI)」の普及があります。
オンデバイスAIとは、クラウドサーバーではなく、ユーザーの手元にあるPCやスマートフォンのチップセット(NPUなど)上でAIモデルを動作させる技術です。日本企業にとって、この技術は以下の2点で大きな意味を持ちます。
- データプライバシーとコンプライアンス: データが社外のクラウドに送信されず、端末内で処理が完結するため、機密情報の漏洩リスクを最小限に抑えられます。金融機関や製造業など、情報の取り扱いに厳しい日本の組織文化と親和性が高いと言えます。
- レスポンスと可用性: 通信遅延の影響を受けないため、業務アプリの操作補助など、リアルタイム性が求められるタスクでのストレスが軽減されます。
「AIの乱立」によるガバナンスの課題
一方で、ハードウェアメーカーが独自のAIアシスタントを組み込み始めることは、企業の情報システム部門にとって新たな課題も生みます。
OSレベルではMicrosoft Copilotが動き、ブラウザではGoogle Geminiが待機し、さらに端末メーカー独自のAI(今回のQiraなど)が稼働するとなれば、従業員は「どのAIを使えばよいか」迷うことになります。また、それぞれのAIが異なるプライバシーポリシーや動作権限を持つ場合、企業全体での統一的なAIガバナンスを効かせることが難しくなる「シャドーAI」のリスクも高まります。
日本企業が得意とする「標準化」や「統制」の観点からは、導入するPCやスマートフォンの選定基準に、ハードウェアスペックだけでなく「プリインストールされたAIの管理機能」を含める必要が出てくるでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
今回のLenovoの動きは、AIの主戦場がクラウドから「デバイス」へと広がりつつあることを示しています。これを踏まえ、日本の実務担当者は以下の点に着目すべきです。
- ハードウェア調達基準の見直し: 今後のPC・スマホ調達では、NPU(AI処理用プロセッサ)の性能に加え、メーカー独自AIのオン/オフ管理やログ管理が可能かを確認する必要があります。
- 「機密レベル」に応じたAIの使い分け: 一般的な業務効率化にはクラウドベースの高性能LLMを、極めて機密性の高いデータ処理にはオンデバイスAIを活用するといった、明確なガイドライン策定が求められます。
- ベンダーロックインの回避: 特定のハードウェアメーカーのAIに業務プロセスを依存させすぎると、将来的な機器切り替えの障壁となります。AI活用はあくまで「業務の補助」に留め、コア業務のプロセス自体は中立性を保つ設計が賢明です。
