20 1月 2026, 火

SnowflakeとGoogle Geminiの連携が示す「データ移動なきAI活用」の未来と、日本企業への示唆

データクラウド大手のSnowflakeが、同社のフルマネージドAIサービス「Snowflake Cortex」においてGoogleの「Gemini」モデルのサポートを開始しました。この動きは単なる機能追加にとどまらず、企業データを外部に出すことなく、セキュアな環境内で最新のLLMを活用するという「Data Gravity(データの重力)」を重視したアーキテクチャへのシフトを象徴しています。

Snowflake CortexにおけるGeminiサポートの意味

2025年1月、Snowflakeは同社のデータプラットフォーム上でAIモデルを直接実行できるサービス「Snowflake Cortex」において、Googleの生成AIモデル「Gemini」を利用可能にすることを明らかにしました。これにより、Snowflakeユーザーは、Llama(Meta)やMistralなどのオープンモデル、Snowflake独自のArcticに加え、Googleの強力なプロプライエタリモデルを選択肢として持てるようになります。

この連携の最大のポイントは、「AIを使うためにデータを移動させる必要がない」という点にあります。従来、高度なLLMを利用するには、データを抽出・匿名化し、API経由でモデルプロバイダーに送信するプロセスが一般的でした。しかし、これにはデータ漏洩のリスクや、データ転送コスト(Egress Cost)、レイテンシの問題が伴います。データウェアハウスの内部で推論を実行できる環境が整うことは、セキュリティとガバナンスを最優先するエンタープライズ企業にとって大きな前進です。

マルチモデル戦略の重要性とGeminiの強み

企業が単一のAIモデルだけを利用する時代は終わりつつあります。用途やコストパフォーマンスに応じて最適なモデルを使い分ける「マルチモデル戦略」が主流になりつつある中で、SnowflakeがGeminiをラインナップに加えたことは合理的です。

Geminiは特に、長大なコンテキストウィンドウ(一度に処理できる情報量)と、テキストだけでなく画像や動画も理解するマルチモーダル能力に定評があります。例えば、社内に蓄積された膨大な技術文書や契約書のPDF、あるいは製品画像データをSnowflake上で管理している場合、Geminiを用いることで、それらを直接解析対象とすることが容易になります。

一方で、単純なテキスト要約やSQL生成であれば、より軽量で安価なモデル(LlamaやMistralの小型版)を選択することも可能です。このように、タスクの難易度とコストのバランスを見ながらモデルを切り替えられる環境こそが、実務的なMLOps(機械学習基盤の運用)には不可欠です。

リスクと課題:コスト管理とガバナンス

もちろん、統合が進むことによる課題もあります。最大の懸念は「コンピュートコストの肥大化」です。データプラットフォーム上で手軽に高性能なLLMが叩けるようになると、意図しない大量のクエリ処理によってクレジット消費が急増するリスクがあります。特にGeminiのような高性能モデルは、オープンモデルと比較して処理コストが高くなる傾向があるため、利用量の上限設定や、部門ごとの課金管理(FinOps)の徹底が求められます。

また、出力結果のハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクはどのモデルを使用しても変わりません。「データが社内にあるから安心」と思っていても、AIが生成した誤ったインサイトに基づいて経営判断を下してしまっては元も子もありません。出力の検証プロセスを業務フローに組み込む重要性は変わりません。

日本企業のAI活用への示唆

今回のニュースは、日本の実務家にとって以下のような具体的な示唆を含んでいます。

1. 「データ持ち出し不可」の壁を越える

日本の金融機関や製造業、官公庁では、「データを社外(あるいは特定のクラウド環境外)に出せない」というセキュリティポリシーが生成AI活用の大きな障壁となってきました。データ基盤(Snowflake)の中でLLMが動くというアーキテクチャは、このコンプライアンス上の課題をクリアする強力な解となります。セキュリティ部門を説得する材料として、「データ移動が発生しない」点は非常に有効です。

2. 非構造化データの資産化(マルチモーダル活用)

日本企業には、紙の帳票、PDF化された仕様書、現場の写真など、活用されていない「非構造化データ」が大量に眠っています。Geminiのマルチモーダル性能をデータ基盤上で直接適用できれば、これらを構造化データと紐づけて分析する高度なRAG(検索拡張生成)システムの構築が加速します。

3. 特定ベンダーへのロックイン回避

Snowflake上でGoogleのモデルを使うという構造は、クラウドインフラとAIモデルを分離して考えるきっかけになります。AWSやAzure上でSnowflakeを動かしつつ、モデルはGoogle製を選ぶといった柔軟性は、将来的な技術トレンドの変化に対応する「ポータビリティ」を確保する上で重要です。

総じて、今回の連携は「どのAIモデルが最強か」という議論から、「自社のデータ基盤の上で、いかに安全かつ効率的に複数のモデルを使いこなすか」というフェーズへ移行すべきであることを示唆しています。

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