検索エンジン対策(SEO)に加え、生成AIが自社ブランドをどう認識し、ユーザーにどう説明するかを管理する「AIブランドアライメント」という概念が注目されています。英国のスタートアップUnusualの資金調達事例を端緒に、AIによる「誤情報の拡散」リスクと、日本企業がとるべき実務的な対策について解説します。
AIが自社ブランドを「誤解」しているリスク
生成AI、特にChatGPTやPerplexityのようなLLM(大規模言語モデル)ベースのサービスが普及するにつれ、ユーザーは従来の検索エンジンではなく、AIとの対話を通じて製品やサービス情報を得るようになっています。しかし、ここで一つの大きな問題が浮上しています。「AIが自社について、正確な情報を語っているか?」という点です。
英国のスタートアップであるUnusual Ventures(以下、Unusual)が、この課題に取り組むために360万ドルの資金調達を実施したというニュースは、この領域が新たなビジネス要件になりつつあることを示唆しています。彼らが提唱するのは「AIブランドアライメント」や「AIビジビリティ」という概念です。
従来のSEO(検索エンジン最適化)は、検索結果の上位に自社サイトを表示させることを目的としていました。対して、これからの課題は、LLMが生成する回答の中で、自社の製品スペック、価格、特徴が正しく引用され、競合他社と公平に比較されるようにすることです。LLMがハルシネーション(もっともらしい嘘)によって、存在しないサービス機能を謳ったり、古い価格情報を提示したりすることは、ブランド毀損に直結します。
SEOからGEO(Generative Engine Optimization)へ
海外ではこの動きを指して、GEO(Generative Engine Optimization)やAIO(AI Optimization)という言葉が使われ始めています。これは、AIモデルが学習データや検索拡張生成(RAG)のプロセスにおいて、自社の情報を正しくピックアップしやすいように環境を整える活動を指します。
具体的には以下の要素が重要視されます。
- 構造化データの整備:ウェブサイト上の情報を、AIが機械的に読み取りやすい形式(Schema.orgなど)で記述する。
- 情報の鮮度管理:プレスリリースや公式サイトの情報を常に最新に保ち、AIが古い情報を「正」としないようにする。
- 引用元の信頼性向上:AIは信頼度の高いドメインの情報を優先する傾向があるため、公的機関や大手メディアからの被リンクや言及を増やす。
Unusualのようなツールベンダーは、主要なLLMに対して自社ブランドに関するプロンプトを入力し、その回答の正確性をモニタリングするソリューションを提供しようとしています。これは、かつてのSEOツールが検索順位をモニタリングしていたのと同様の進化と言えます。
日本企業におけるリスクとガバナンスの視点
日本企業、特に金融、製造、インフラなどの信頼性が重視される業界において、AIによる「誤った説明」は看過できないリスクです。例えば、ユーザーが「A社の保険プランの特徴は?」とAIに尋ねた際、AIが約款と異なる有利な条件を回答してしまい、それを信じたユーザーとの間でトラブルになる可能性はゼロではありません。
また、日本の商習慣では「正確さ」や「お詫び」が重視されますが、他社(OpenAIやGoogleなど)が提供するAIモデルが出力した誤情報に対して、自社がどこまで責任を負うべきかという法的な線引きは、現時点では曖昧です。そのため、少なくとも「公式情報は正しく公開していた」という事実を担保し、AI側の誤認を減らす努力(エンジニアリング)が、広報やマーケティング部門だけでなく、リスク管理部門の課題となりつつあります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のニュースは単なる海外ツールの紹介にとどまらず、日本企業が向き合うべき新しい「情報の流通経路」への対応を示唆しています。実務的なポイントは以下の通りです。
1. 自社ブランドの「AI監査」を実施する
ChatGPT、Gemini、Claude、Perplexityなどの主要なAIサービスで、自社名や製品名を定期的に検索し、どのような回答が生成されるかを確認してください。SEO順位チェックと同様に、AIが自社をどう「認識」しているかを知ることが第一歩です。
2. コンテンツの「機械可読性」を高める
自社サイトのUI/UX(人間にとっての見やすさ)だけでなく、AIクローラーにとっての読みやすさを意識する必要があります。PDFだけで情報を公開せず、HTMLテキストとして構造化データを明示することは、AIによる誤読を防ぐために有効です。
3. 生成AIリスクを広報・法務課題として捉える
AIによる誤情報の拡散は、技術的な問題であると同時に、レピュテーションリスクです。誤った情報が生成され続ける場合、プラットフォーマーへの修正申請や、公式サイトでの注意喚起など、技術と広報・法務が連携した対応フローを検討しておく時期に来ています。
