19 1月 2026, 月

「営業担当の採用は終了した」SaaS界の巨人が予言するAIエージェントの台頭と、日本企業が直視すべき現実

「SaaSのゴッドファーザー」として知られるジェイソン・レムキン氏による「人間による営業担当の採用は終わりつつある」という発言が、米国のテック業界で波紋を呼んでいます。単なる文章生成を超え、自律的に業務を遂行する「AIエージェント」の進化は、企業の組織論をどう変えるのか。労働人口減少が進む日本において、この潮流をどう捉え、実務に落とし込むべきかを解説します。

「SaaSの神」が示唆する営業プロセスのパラダイムシフト

SaaS(Software as a Service)ビジネスにおける世界的権威であり、SaaStrの創設者であるジェイソン・レムキン(Jason Lemkin)氏の発言が注目を集めています。彼は、今後のB2B営業において、AIエージェントが人間の一部代替、あるいはそれ以上の成果を出すようになり、従来の「人間を大量採用して売上を作る」モデルが終焉に向かう可能性を示唆しました。

これは、ChatGPTに代表されるような「人間が指示を出して回答を得る」対話型AIの枠を超え、目標を設定すれば自律的にタスクを完遂する「AIエージェント(Agentic AI)」の実用化が進んでいることを背景にしています。

インサイドセールス(SDR)の自律化という衝撃

レムキン氏の主張の核心は、特にインサイドセールス(SDR:Sales Development Representative)領域における変化にあります。見込み顧客のリストアップ、初期のアプローチ、商談のスケジュール調整といった一連のプロセスは、これまで若手の営業担当者が人海戦術で行うのが一般的でした。

しかし、最新のAIエージェントは、企業のWebサイトやニュースリリースを分析し、パーソナライズされたメールを作成・送信し、返信に対して適切なラリーを行い、カレンダーに予定を入れるところまでを「自律的」に行い始めています。米国ではすでに、こうしたAIエージェントが人間のSDRよりも低コストかつ24時間稼働で成果を上げ始めている事例が出始めており、これが「もう人間を採用する必要はない」という過激な発言に繋がっています。

日本企業における「壁」と「好機」

では、この潮流を日本企業はそのまま受け入れるべきでしょうか。ここで考慮すべきは、日本の商習慣と組織文化です。

日本のB2B営業では、信頼関係(ラポール)の構築や、決裁権限者への根回し、そして「行間を読む」ハイコンテクストなコミュニケーションが重視されます。AIが生成した、いかにも効率重視のコールドメール(飛び込み営業メール)は、日本の担当者には「スパム」として忌避されるリスクが高いのが現実です。したがって、日本では「完全な代替」ではなく、「ハイブリッドな分業」が現実的な解となります。

一方で、日本は深刻な労働力不足に直面しています。「採用したくても人が来ない」という日本企業の課題に対し、AIエージェントは強力なソリューションになり得ます。定型的な初期アプローチや休眠顧客の掘り起こしをAIに任せ、人間はクロージングや複雑な提案、顧客との関係深化(カスタマーサクセス)に集中する。この体制構築こそが、日本におけるAI活用の勝ち筋と言えます。

AIエージェント導入のリスクとガバナンス

もちろん、リスクも存在します。AIが誤った価格情報を提示したり、ブランド毀損につながる不適切な表現でメールを送信したりする「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクはゼロではありません。

AIに営業活動を委任する場合、どの範囲まで自律的な行動を許可するのか、どのタイミングで人間が承認(Human-in-the-loop)を行うのかという「AIガバナンス」の設計が不可欠です。また、相手がAIであることを明示するか否かといった倫理的なガイドラインの策定も、企業の信頼を守る上で重要な論点となります。

日本企業のAI活用への示唆

今回のジェイソン・レムキン氏の提言を受け、日本の実務家・意思決定者は以下の3点を意識すべきです。

  • 「代替」ではなく「補完」から始める:営業担当者を減らすことより、採用難易度の高いSDR業務の不足分をAIエージェントで補う発想を持つこと。
  • 商習慣に合わせたチューニング:海外製ツールをそのまま使うのではなく、日本のビジネスマナーや「断り」のニュアンスを学習させたプロンプトエンジニアリングやRAG(検索拡張生成)の整備を行うこと。
  • ガバナンス体制の先行構築:AIが勝手に契約条件を提示しないよう、権限管理と監査ログの仕組みを導入前に設計すること。

「人間かAIか」という二元論ではなく、AIエージェントを「疲れを知らない優秀な新人」としてチームにどう組み込み、どうマネジメントするか。その手腕が、これからのマネージャーや経営層に問われています。

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