ChatGPTに将来の有望株を選定させる実験が注目を集めていますが、人間の専門家はその結果に慎重な姿勢を見せています。生成AIを企業の意思決定支援や予測業務に活用する際、どのようなリスクと限界があるのか。金融領域の事例をヒントに、日本企業における「AIと専門家の協業」の在り方を解説します。
ChatGPTの推奨と専門家の視点の乖離
英国の投資情報媒体The Motley Foolにおいて、ChatGPTに「2026年に向けた有望な英国株」を選定させるという興味深い試みが行われました。しかし、同メディアの専門家であるEdward Sheldon氏は、AIが提示した銘柄リストに対し、独自の見解を持って異を唱え、より高品質と考える別の銘柄群を提案しています。
この事例は、生成AI活用における象徴的な教訓を含んでいます。大規模言語モデル(LLM)は、膨大な過去のテキストデータを学習しており、一般的な「優良企業の定義」や「過去に評判の良かった銘柄」を列挙することは得意です。しかし、現在の市場環境の微妙な変化、経営陣の質、あるいは地政学的なリスクといった、数値化しにくい定性的な文脈を深く読み解く能力においては、依然として熟練した人間に分があることを示唆しています。
LLMは「未来」を予測するツールではない
企業がAIを戦略立案や市場予測に活用しようとする際、LLMの技術的な特性を正しく理解しておく必要があります。ChatGPTなどの生成AIは、確率的に「次に来るもっともらしい言葉」をつなぎ合わせるモデルであり、論理的推論に基づいて未来をシミュレーションしているわけではありません。
特に株式市場のような複雑系においては、過去のパターンの延長線上にない事象(ブラックスワン)が発生します。LLMは学習データに含まれない最新のニュースや、データ化されていない現場の「空気感」を反映できない場合があり、その回答は往々にして「一般的で無難な意見」か、最悪の場合「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」を含んだものになります。
日本企業においても、マーケティング予測や需要予測にAIを導入する動きがありますが、生成AIのアウトプットをそのまま「正解」として採用するのは危険です。あくまで「過去の集合知」としての参考意見と捉えるのが妥当です。
日本における法的リスクと「Human-in-the-loop」
特に金融や医療、法律といった規制産業でAIを活用する場合、日本では関連法規への抵触に注意が必要です。例えば、AIが自動的に特定の銘柄を推奨し、それを顧客に直接提供する場合、金融商品取引法上の「投資助言代理業」の登録が必要になる可能性があります。AIの回答が誤っていた場合の損害賠償責任を誰が負うのかという議論も、まだ完全には決着していません。
こうした背景から、実務においては「Human-in-the-loop(人間がループの中に入る)」のアプローチが不可欠です。AIは膨大なデータからのスクリーニングや、初期仮説の生成(壁打ち相手)として利用し、最終的な評価と意思決定は人間が行うという分担です。今回の元記事の事例も、AIの提案を専門家が検証・修正するというプロセス自体が、健全なAI活用の形を示していると言えます。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、日本のビジネスリーダーや実務者は以下の点を意識してAI活用を進めるべきでしょう。
- 意思決定の補助ツールと割り切る:AIは「答え」を出すマシンではなく、思考の幅を広げるための「アシスタント」と位置づける。特に将来予測においては、AIの案を批判的に検証するプロセスを業務フローに組み込むことが必須です。
- ドメイン知識の重要性:AIのアウトプットの良し悪しを判断できるのは、その分野に精通した人間だけです。AI時代だからこそ、社内の専門人材(SME: Subject Matter Expert)の知見が重要になります。
- ガバナンスと責任の明確化:AIが生成した情報を社外に出す場合や、経営判断に使う場合のガイドラインを策定すること。特に著作権侵害や誤情報の拡散リスクに対し、日本国内の商慣習や法規制に即したチェック体制を敷くことが求められます。
- 独自データとの連携:汎用的なLLMだけでなく、社内の独自データや最新のニュースフィードを検索させて回答を生成するRAG(検索拡張生成)などの技術を組み合わせることで、情報の鮮度と信頼性を高める工夫が有効です。
