18 1月 2026, 日

「米国がベネズエラ侵攻?」──生成AIの「もっともらしい嘘」と、日本企業に求められるファクトチェック体制

ChatGPTやPerplexityといった高度なAIモデルが、実際には起きていない「米国のベネズエラ侵攻」を事実として回答したり、モデル間で情報の食い違いを見せたりする事例が報告されています。この事象は、生成AIにおける「ハルシネーション(幻覚)」と「リアルタイム情報の不確実性」という根深い課題を浮き彫りにしました。本稿では、この事例を端緒に、日本企業がAIを活用する際のリスク管理と、ガバナンス構築の重要性について解説します。

AIが「歴史」を捏造する瞬間

最近、AI業界で話題となったトピックの一つに、「米国がベネズエラに侵攻し、マドゥロ大統領を拘束した」という虚偽情報をAIがもっともらしく回答した件があります。Slashdotなどのテック系メディアで取り上げられたこの事例では、ChatGPTやPerplexityといった代表的なLLM(大規模言語モデル)ベースのサービスが、実際には発生していない地政学的イベントについて、肯定したり否定したりと一貫性のない、あるいは誤った情報を出力しました。

これは単なる「システムのバグ」ではありません。LLMは確率的に「次の単語」を予測する仕組みであり、インターネット上の不確実な情報、風刺記事、あるいは意図的なデマ(Disinformation)を学習・参照してしまった場合に、それを事実として構成してしまう「ハルシネーション(Hallucination)」の典型例です。特に、Web検索を組み合わせて回答を生成する「RAG(検索拡張生成)」技術を用いていても、参照元の質が低ければ、AIは自信満々に嘘をつくことができます。

企業ユースにおける「情報の汚染」リスク

この事例は、地政学のニュースに限った話ではありません。日本企業のビジネス現場においても同様のリスクが潜んでいます。例えば、以下のようなシナリオが考えられます。

  • 競合調査:競合他社の新規事業についてAIに調査させたところ、ネット上の噂レベルの情報を確定事項として報告書にまとめてしまう。
  • 反社チェック・与信管理:取引先の風評をAIで検索させた際、同名他人の不祥事や根拠のない誹謗中傷記事を拾い、誤った与信判断を下してしまう。
  • 広報・IR:自社のプレスリリース案を作成させる際、過去の事実とは異なる数値を捏造して記載してしまう。

特に日本では、情報の正確性と信頼(Trust)が商習慣上極めて重要視されます。「AIが言ったから」という言い訳は、株主や取引先、規制当局には通用しません。AIがもっともらしい日本語で流暢に嘘をつく能力を持っていることを、現場の担当者だけでなく、経営層も深く理解する必要があります。

「RAG」は万能薬ではない

現在、多くの日本企業が社内ドキュメントを検索させて回答させる「社内版RAG」の構築を進めています。これはハルシネーションを抑制する有効な手段ですが、それでも万能ではありません。

外部のWeb検索を伴うAIサービス(PerplexityやBing Chat、ChatGPTのBrowse機能など)を利用する場合、AIは「情報の真偽」を判断する能力を持たず、あくまで「関連性の高さ」で情報をピックアップします。SNS上のトレンドや一時的なデマが検索上位に来ていれば、AIはそれを真実として取り込むリスクがあります。情報のソース(出所)が明示されるツールであっても、ユーザーがそのソースリンクをクリックして確認しない限り、誤情報は拡散され続けます。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例を踏まえ、日本企業が実務においてAIを安全かつ効果的に活用するためのポイントを整理します。

1. Human-in-the-Loop(人間による確認)の制度化

意思決定に関わる重要な情報収集や、対外的なアウトプットの作成において、AIを「最終確認者」にしてはいけません。必ず人間がソースを確認するプロセスを業務フローに組み込む必要があります。特に「新規性の高いニュース」や「数値データ」については、一次情報の確認を義務付ける社内規定が求められます。

2. 用途に応じたAIの使い分け

「アイデア出し」や「要約」「翻訳」といった正解が一つではないタスクと、「事実確認」「調査」といった正確性が求められるタスクを明確に区別すべきです。正確性が生命線となる業務では、汎用的なWeb検索AIに頼り切らず、信頼できる専門データベースや、自社でキュレーションしたデータソースのみを参照する特化型AIの利用を検討してください。

3. AIリテラシー教育のアップデート

従業員に対し、「プロンプトエンジニアリング」だけでなく、「AIの限界とリスク」を教える教育が急務です。「AIは嘘をつくことがある」という前提を組織文化として定着させ、AIの出力を批判的に読み解くスキル(クリティカル・シンキング)を養うことが、結果として企業のガバナンス強化に繋がります。

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