18 1月 2026, 日

投資の正解は「マグナ・カルタ」か「世界最古の株」か? 生成AIの回答差に見るモデルの個性と選定基準

Gemini、ChatGPT、Claudeの3大モデルに「歴史上最高の投資は何か」と問うと、それぞれ「マグナ・カルタ」「スウェーデンの銅山株」「アル=アズハルのワクフ(寄進)」という全く異なる回答が返ってきました。この事例は、AIモデルが単なる計算機ではなく、開発元の思想や調整手法によって異なる「価値観」を持つことを示唆しています。日本企業がAIを選定・活用する上で無視できない、モデルの多様性とバイアスへの向き合い方を解説します。

3つのAI、3つの異なる「正解」

生成AIの比較議論において、これまでは「推論能力」や「コンテキストウィンドウ(扱える情報量)」の広さが主な焦点でした。しかし、ペンシルベニア大学ウォートン校のイーサン・モリック教授(Ethan Mollick)が紹介した事例は、それとは異なる「モデルの個性」という側面を鮮明に映し出しています。

「ある金額を費やす上で、歴史上最高の投資に相当するものは何か?」という問いに対し、主要なLLM(大規模言語モデル)は以下のように回答しました。

  • Gemini (Google): 「マグナ・カルタ(大憲章)」
    — 民主主義や法的権利の基礎となった歴史的文書を保存・継承することへの価値を重視。
  • ChatGPT (OpenAI): 「ストラ・コッパルベリ(Stora Kopparberg)の株式」
    — 現存する世界最古の株式会社とされるスウェーデンの銅山企業の株式。経済的リターンと永続性を重視した実利的な回答。
  • Claude (Anthropic): 「アル=アズハル大学のワクフ(Waqf: イスラム法に基づく寄進・信託)」
    — 1000年以上続く教育機関への寄付制度。持続可能な社会システムや教育への貢献という倫理的・長期的視点を重視。

この結果は、各モデルが学習データやRLHF(人間によるフィードバックを用いた強化学習)のプロセスを通じて、どのような「価値観」や「優先順位」を内包しているかを示唆しています。

「正解のない問い」で露呈するモデルのバイアス

企業がAIを導入する際、コード生成や定型的な要約であれば、どのモデルを使っても結果に大差はないかもしれません。しかし、今回のような「正解のない問い」や、戦略立案、アイデア出し、あるいは倫理的判断を伴うタスクにおいては、モデルの選定がアウトプットの質と方向性を大きく左右します。

ChatGPTはより実務的・資本主義的な解を好む傾向が見られ、ClaudeはAnthropic社が掲げる「Constitutional AI(憲法AI)」の影響か、安全性や社会的公益を重視する傾向があると言われています。GoogleのGeminiは、検索エンジン大手としての背景から、事実情報や歴史的権威へのアクセスを優先する傾向があるかもしれません。

これは「どのAIが優れているか」という優劣の話ではなく、「どのAIが自社のタスクや文化にフィットするか」という適性の問題です。

日本企業における「モデル・オーケストレーション」の重要性

この事例から得られる最大の教訓は、単一のAIモデルに全てを依存することのリスクです。特に日本のビジネスコンテクストにおいては、以下の点に注意が必要です。

第一に、これらのモデルはいずれも欧米の文化的背景を色濃く反映しているという点です。マグナ・カルタやワクフといった概念が即座に出てくる一方で、日本の「三方よし」や「老舗企業の暖簾」といった概念が、同じ重みで評価されるとは限りません。グローバルモデルをそのまま使うだけでは、日本の商習慣や組織文化に即した「最適解」が得られない可能性があります。

第二に、意思決定支援にAIを使う場合、複数のモデルに同じ問いを投げかけ、回答を比較検討する「セカンドオピニオン」的な使い方が有効であるということです。これをシステム的に実装する「LLMオーケストレーション」や「モデルルーティング」といった技術が、今後のエンタープライズAI開発の主流になっていくでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

最後に、今回の事例を踏まえ、日本企業の意思決定者やエンジニアが意識すべきポイントを整理します。

  • 単一ベンダーロックインの回避:
    特定の一社(OpenAIのみ、Googleのみ等)に依存しすぎると、そのモデル特有のバイアスに業務プロセス全体が影響を受ける可能性があります。APIの互換性を維持し、タスクに応じてモデルを切り替えられる柔軟なアーキテクチャ(LangChainや各種ラッパーの活用)を設計段階から組み込むことが推奨されます。
  • 「文化的・文脈的」な調整の必要性:
    海外製LLMは、日本の法規制や「稟議」「根回し」といった固有のビジネスプロセスを学習していません。RAG(検索拡張生成)を用いて社内規定や過去のドキュメントを参照させることは、単にハルシネーション(嘘の回答)を防ぐだけでなく、モデルの回答を自社の文化に「グラウンディング(着地)」させるためにも不可欠です。
  • 多様な視点の獲得ツールとしての活用:
    新規事業のアイデア出しやリスク評価において、あえて特性の異なる複数のAI(ChatGPTの論理的思考、Claudeの慎重さなど)を戦わせることで、人間の視野では見落としがちな視点を網羅することができます。AIを「答えを出す機械」としてだけでなく、「議論の壁打ち相手」として複数用意する運用が、質の高い意思決定につながります。

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