OpenAIは「GPT Store」を通じ、AppleのApp Storeのような巨大なエコシステムの構築を目指しています。しかし、その道のりは平坦ではなく、実用性や品質の面で課題も指摘されています。本記事では、このプラットフォーム競争の現状を整理し、日本企業がこの動向をどう捉え、実務に活かすべきかを解説します。
チャットボットから「プラットフォーム」への転換
OpenAIのサム・アルトマンCEOが描く戦略は、単に高性能なAIモデルを提供することにとどまりません。彼らの真の狙いは、iPhoneにおける「App Store」のような、AIアプリケーションの流通プラットフォームを構築することにあります。それが「GPT Store」であり、ユーザーがノーコードで独自のChatGPT(GPTs)を作成・公開できる仕組みです。
この動きは、かつてモバイルアプリ市場が爆発的に成長した「iPhoneモーメント」の再来を狙ったものと言えます。しかし、The Wall Street Journalなどの報道でも指摘されている通り、現時点ではその道のりは「前途多難(Long Way to Go)」と言わざるを得ません。
「実用性」という高い壁
GPT Storeにはすでに多数のアプリ(GPTs)が存在しますが、ビジネスの現場で継続的に利用したくなるほど「実用的なもの」はまだ多くありません。初期のApp Storeと同様、あるいはそれ以上に、玉石混交の状態が続いています。
主な課題は以下の点に集約されます。
- 品質のばらつき:単純なプロンプト(指示文)をラップしただけのアプリが多く、独自性や深みに欠ける。
- ハルシネーション(もっともらしい嘘):業務利用において致命的となりうる情報の不正確さが完全に排除できていない。
- 発見の難しさ:膨大なアプリの中から、本当に有用なものを見つけ出す検索性やレコメンド機能が未成熟。
特に日本の商習慣においては、成果物の正確性や信頼性が厳しく問われます。「なんとなく便利」なレベルでは、エンターテインメントとしては成立しても、企業の基幹業務や顧客向けサービスとして定着するにはハードルが高いのが現状です。
Appleという巨人の存在と「OS」の強み
OpenAIがプラットフォーム覇権を狙う上で最大の障壁となるのが、皮肉にも彼らがアプリを提供しているデバイスの持ち主、Appleなどのハードウェア/OSベンダーです。
Appleは「Apple Intelligence」を発表し、OSレベルでのAI統合を進めています。ユーザー接点(UI/UX)をOS側が握っている以上、OpenAIが「アプリ内の一機能」から脱却し、ユーザー体験のすべてを支配するのは容易ではありません。ユーザーにとっては、わざわざChatGPTアプリを開いて特定のGPTを探すよりも、スマホに向かって話しかけるだけでSiriが解決してくれる方が遥かに利便性が高いからです。
日本企業における「GPTs」の現実的な活路
では、この状況下で日本の企業やエンジニアはどう動くべきでしょうか。グローバルなプラットフォーム競争の行方を注視しつつも、足元では「公開用アプリ」よりも「社内用アプリ」としての活用に勝機があります。
日本企業、特に大手・中堅企業においては、セキュリティやガバナンスの観点から、パブリックなGPT Storeへの出品よりも、「社内版GPT(Enterprise版)」による業務効率化のニーズが圧倒的に高いです。例えば、社内規定集を読み込ませた人事FAQボットや、過去の技術文書を検索・要約するRAG(検索拡張生成)システムなどは、特定の業務ドメインに特化させることで、現時点でも十分なROI(投資対効果)を出せます。
日本企業のAI活用への示唆
OpenAIのプラットフォーム構想と現状の課題を踏まえ、日本の意思決定者や実務者は以下の3点を意識すべきです。
1. 「ストア公開」より「社内データの資産化」を優先する
一攫千金を狙ってGPT Store向けのアプリ開発にリソースを割くよりも、まずは自社の独自データを使って、社内業務を効率化するカスタムGPT(または同等の内製アプリ)を開発・運用する方が確実です。そこで蓄積した「AIにどのような指示を出せば業務が回るか」というノウハウこそが、将来的な競争力の源泉となります。
2. 特定ベンダーへのロックインリスクを考慮する
OpenAIの機能(Assistants APIやGPTs)に過度に依存したシステム構築は、プラットフォームの仕様変更や価格改定の影響を直接受けます。特に生成AI分野は技術の陳腐化が早いため、主要なロジックは自社でコントロール可能な場所に置き、LLM(大規模言語モデル)部分は差し替え可能な疎結合な設計にしておくことが、長期的なリスクヘッジになります。
3. 「AIエージェント」時代への布石を打つ
現在のGPTsはチャット形式が主流ですが、今後はAIが自律的にタスクをこなす「AIエージェント」へと進化していきます。今のうちから、「人間がAIに指示を出す」だけでなく、「AIが他のシステム(API)を叩いて処理を実行する」フローを業務の中に小さく組み込んでおくことが重要です。日本の現場が得意とする「業務プロセスの標準化」は、実はAIエージェント導入の強力な下地となります。
