17 1月 2026, 土

生成AIは「対話」から「実行」へ:Zalo AI Summit 2025に見る「AIエージェント」の実用化と日本企業の次なる一手

ベトナムの国民的アプリZaloが開催した「Zalo AI Summit 2025」では、AIエージェントとマルチエージェントシステムが主要テーマとして語られました。単なるチャットボットを超え、具体的なタスクを完遂する「自律型AI」へのシフトが進む中、日本企業はこの潮流をどう捉え、業務プロセスに組み込むべきか。現地の動向をヒントに、日本国内での実務実装のポイントを解説します。

LLM単体から「AIエージェント」へのパラダイムシフト

ベトナムのメッセージングプラットフォーム大手Zaloが開催した「Zalo AI Summit 2025」において、数千人の参加者が注目したのは「AIエージェント」および「マルチエージェントシステム」の実用例でした。これは、グローバルなAIトレンドが、文章や画像を生成するフェーズから、具体的なタスクを自律的に実行するフェーズへと移行していることを如実に示しています。

これまで日本国内でも多くの企業がRAG(検索拡張生成)を用いた社内QAボットなどを導入してきましたが、これらはあくまで「情報の提示」に留まっていました。対してAIエージェントは、提示された情報に基づき、予約システムの操作、コードの実行、メールの送信といった「アクション」までを担います。

特に注目すべきは「マルチエージェント」のアプローチです。これは、特定のタスクに特化した複数のAI(例えば、検索担当、計画立案担当、コード生成担当、レビュー担当など)が連携して複雑な問題を解決する仕組みです。一人の天才的なAIにすべてを任せるのではなく、役割分担を行うこの手法は、複雑な業務フローを持つ日本企業の組織構造とも親和性が高いと考えられます。

スーパーアプリ経済圏とUXの統合

ZaloはベトナムにおけるLINEのような存在であり、決済から行政手続きまでを行えるスーパーアプリです。今回のサミットで示唆されたのは、ユーザーが使い慣れたインターフェースの中に、生活や業務を支援するAIエージェントが自然に溶け込む未来です。

日本企業におけるAI導入の課題の一つに、「新しいツールを導入しても社員が使ってくれない」という定着率の問題があります。Zaloの事例は、AIを独立したツールとして提供するのではなく、Slack、Microsoft Teams、あるいはLINE WORKSといった、従業員や顧客が日常的に使用しているコミュニケーションチャネルに「エージェントとして常駐させる」ことの重要性を示唆しています。

UI(ユーザーインターフェース)を新たに学習させるコストをかけず、自然言語による指示だけでバックオフィスの申請処理や顧客対応が完結する体験設計こそが、実務適用の鍵となります。

自律性のリスクと「人間中心」のガバナンス

一方で、AIに実行権限を持たせることにはリスクも伴います。AIエージェントが誤った判断で発注を行ったり、不適切なメールを顧客に送信したりするリスク(ハルシネーションによる誤作動)は、LLM単体の利用時よりも深刻な実害をもたらす可能性があります。

日本国内のコンプライアンス基準や商習慣に照らし合わせると、完全な自律化を目指す前に、「Human-in-the-loop(人間がループの中に入る)」設計が不可欠です。AIエージェントが提案を行い、人間が最終承認ボタンを押すことで初めてアクションが実行される、といった堅実なワークフロー構築が求められます。

また、マルチエージェントシステムにおいては、AI同士が無限ループに陥ったり、予期せぬ挙動を示したりする可能性もあります。開発・運用フェーズ(MLOps)において、エージェントの行動ログを監視し、異常検知を行うガードレールの設置は、技術的な必須要件となるでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

Zalo AI Summitのトピックと日本の現状を照らし合わせると、以下の3点が実務上の重要な指針となります。

1. 「回答」から「代行」への目的転換
社内FAQの構築で満足せず、その先にある「申請代行」「データ集計」「定型メール作成」など、具体的なアクションをAIエージェントに任せる検証を始めてください。労働人口が減少する日本において、AIは検索ツールではなく「デジタル労働力」として扱う必要があります。

2. 既存ワークフローへの埋め込み
AI専用のポータルサイトを作るのではなく、既存のチャットツールやSaaSの中にエージェントをAPI連携で組み込んでください。UXの摩擦を減らすことが、現場での活用を促進します。

3. 段階的な権限委譲とガバナンス
最初から全自動化を目指さず、「AIはドラフト作成と提案まで」とし、実行権限は人間に残すハイブリッド運用から開始してください。これにより、日本の高い品質基準とコンプライアンス要件を満たしつつ、業務効率化を実現できます。

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