Instagram責任者が語る「不完全さ」こそが人間らしさの証明になるという逆説。生成AIによるコンテンツが現実と区別がつかなくなる中で、日本企業が直面する「信頼(トラスト)」の課題と、実務的なリスク対応策について解説します。
「見ればわかる」が通用しない時代の到来
Instagramの責任者であるAdam Mosseri氏は、The Vergeの取材に対し「もはや自分の目で見るものが現実かどうか、信じることはできない」と述べ、クリエイターたちが自身のコンテンツがAI生成ではなく「本物」であることを示すために、あえて「不完全さ(imperfection)」を強調する傾向にあると指摘しました。
この発言は、生成AIの技術進化が、もはや人間の知覚能力を超えつつある現状を如実に表しています。画像生成AIの「Midjourney」や動画生成AIの「Sora」などに代表される最新モデルは、光の反射、肌の質感、物理法則の再現において驚異的な精度を誇ります。しかし、皮肉なことに、その「完璧すぎる仕上がり」こそが、かえって「AIによって作られたものではないか」という疑念を抱かせる要因となりつつあるのです。
日本企業が直面する「品質」と「真正性」のジレンマ
日本のビジネスシーン、特にマーケティングや広報の現場では、長らく「高品質で洗練されたクリエイティブ」が良しとされてきました。しかし、Mosseri氏の指摘は、この常識に一石を投じています。あまりにノイズがなく、構図が完璧すぎるビジュアルは、生活者に「作られた現実(合成)」という印象を与え、かえってエンゲージメントを下げる可能性があります。
一方で、日本企業にとって「不完全さ」を許容することは容易ではありません。商品画像の不備や情報の曖昧さは、企業の信頼性(トラスト)に関わる問題と捉えられがちだからです。ここで重要になるのは、意図的な「人間らしさ」の演出と、AI活用における「透明性」の確保です。
技術的・制度的アプローチによる信頼性の担保
「本物」と「AI生成」を区別するための技術的な取り組みも進んでいます。例えば、C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)のような技術標準規格は、コンテンツの来歴をデジタル署名で記録し、改ざんやAI生成の有無を追跡可能にするものです。カメラメーカーやソフトウェア企業が主導していますが、今後は一般企業が発信するコンテンツにも、こうした「真正性の証明」が求められるようになるでしょう。
また、日本国内においても、AI事業者に対する規制やガイドラインの議論が進んでいます。企業が広告やオウンドメディアでAI生成コンテンツを使用する場合、その旨を明示すること(ラベリング)は、法的義務になる前であっても、コンプライアンスおよびレピュテーションリスク管理の観点から強く推奨されます。
リスク管理としてのAIガバナンス
ディープフェイク技術の悪用は、著名人のなりすましだけでなく、企業のCEOによる虚偽の声明動画や、不祥事をでっち上げる画像生成など、深刻なセキュリティリスクとなっています。これらは「ブランド毀損」に直結します。
したがって、企業は「自社がAIをどう活用するか」という攻めの戦略だけでなく、「自社に関連するAI生成コンテンツが世に出た際、どう対処するか」という守りのガバナンス体制を構築する必要があります。従業員のリテラシー教育を含め、「目は信じられない」ことを前提とした業務フローの再構築が急務です。
日本企業のAI活用への示唆
以上の動向を踏まえ、日本のビジネスリーダーや実務担当者は以下の点に留意してAI活用を進めるべきです。
1. コンテンツの「透明性」を競争優位にする
AIを活用して制作したコンテンツには、隠さずにその旨を明記する、あるいは電子透かし等の技術を採用するなど、透明性を確保することが「誠実な企業」としてのブランド価値を高めます。消費者はAIの使用自体を嫌っているのではなく、「騙されること」を嫌います。
2. 「人間味(Human Touch)」の再定義
効率化や大量生成が必要な領域(カタログ作成、バリエーション出し等)ではAIをフル活用しつつ、ブランドのコアとなるメッセージや、顧客との感情的なつながりが必要な場面では、あえて「生身の人間」が登場するコンテンツや、完璧ではないリアリティを重視するなど、メリハリのある使い分けが重要です。
3. ゼロトラスト前提のセキュリティ教育
「映像証拠があるから事実だ」という前提は崩れました。社内の承認プロセスや本人確認において、映像や音声だけで判断せず、多要素認証や電子署名などの確実な手段を組み合わせるよう、社内規定を見直す時期に来ています。
