17 1月 2026, 土

旅行計画に見る「検索から対話へ」の行動変容──生成AI時代の顧客体験と日本企業のデータ戦略

旅行計画においてChatGPTなどの生成AIを活用する動きが世界的に加速しています。これは単なるツールの変化ではなく、ユーザーの行動が「キーワード検索」から「対話による提案」へとシフトしていることを示唆しています。本稿では、このトレンドを起点に、日本企業が直面するUX(ユーザー体験)の転換点と、ハルシネーション(もっともらしい嘘)などのリスクに対する実務的な対応策を解説します。

「タブを大量に開く」時代の終わりと、AIコンシェルジュの台頭

CNN Travelなどが報じている通り、海外では旅行計画の策定にChatGPTなどの生成AIを利用するユーザーが増加しています。これまでの旅行計画といえば、検索エンジンで目的地を検索し、航空券、ホテル、レストラン、観光スポットの口コミなど、複数のウェブサイトを横断して情報を収集し、ブラウザのタブを大量に開きながら比較検討するのが一般的でした。

しかし、大規模言語モデル(LLM)の登場により、このプロセスは劇的に変化しつつあります。「東京から京都へ2泊3日、予算は1人10万円以内で、歴史的な寺院巡りと地元の美食を楽しみたい」といった自然言語の指示に対し、AIが瞬時に旅程案を提示してくれる体験は、ユーザーにとって圧倒的な「タイパ(タイムパフォーマンス)」の向上をもたらします。

この変化は旅行業界に留まりません。EC、不動産、金融相談など、これまで「検索とフィルタリング」に依存していたあらゆるサービスにおいて、ユーザーはAIによる「要約と提案」を求め始めています。日本のプロダクト担当者は、自社のサービスが依然として「ユーザーに自力で探させる」UIに留まっていないか、再考する必要があります。

ハルシネーションのリスクと情報の鮮度

一方で、実務的な観点から見逃せないのが、生成AI特有のリスクである「ハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)」です。特に旅行分野においては、存在しないホテルを勧めたり、すでに廃止されたバス路線を案内したりするリスクがあります。

日本の商習慣において、企業が提供する情報の正確性は信頼の根幹です。ユーザーがAIの提案を信じて行動し、現地でトラブルに見舞われた場合、サービス提供者のブランド毀損は避けられません。LLMは基本的に「確率的に次の単語を予測する」仕組みであり、事実確認を行う機能(Fact Checking)は内包していません。

したがって、企業が生成AIをサービスに組み込む際は、単にOpenAI等のAPIを接続するだけでは不十分です。最新かつ正確な情報を担保するために、外部の検索エンジンや自社データベースとAIを連携させる「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」のアーキテクチャ構築が必須となります。

日本企業における「おもてなし」とAIの融合

日本企業がこのトレンドを取り入れる際、強みとなるのは独自の「データ」と「きめ細やかなサービス設計」です。汎用的なChatGPTは一般的な観光地を列挙することは得意ですが、「今の時期にしか見られない景色」や「地元民しか知らない予約必須の店」といった文脈の深い情報は持っていない場合があります。

国内の旅行代理店や予約プラットフォームが目指すべきは、汎用LLMが持つ対話能力と、自社が保有する正確な在庫情報・詳細なメタデータを組み合わせることです。例えば、ユーザーの曖昧な要望をAIが言語化し、最終的な予約は確実な自社システムで行うといったハイブリッドな設計が求められます。

また、日本のユーザーは失敗を嫌う傾向があります。AIが提案するプランに対し、「なぜそのプランを推奨したのか」という根拠を示したり、AIの回答に誤りが含まれる可能性をUI上で適切に明示(ディスクレーマー)したりするなど、AIガバナンスとUXライティングの両面での配慮が不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回の「旅行計画×AI」の事例から、日本のビジネスリーダーやエンジニアは以下の点を意識すべきです。

1. インターフェースの対話型への移行
検索窓にキーワードを入れるだけのUIから、ユーザーの意図(インテント)を汲み取るチャット型、あるいは対話型UIへの移行を検討してください。特に情報量が多く、選択肢が複雑な商材(旅行、保険、不動産)ほど効果的です。

2. RAGによる信頼性の担保
日本市場では情報の正確性が厳しく問われます。LLMの知識のみに依存せず、自社の正確なデータベースを参照させるRAGの仕組みを実装し、ハルシネーションリスクを最小化してください。

3. 独自データの価値再認識
AIモデル自体はコモディティ化しつつあります。差別化の源泉は、AIに「何を食べさせるか(参照させるか)」にあります。自社だけが持つ独自データ(在庫、リアルタイムの混雑状況、専門家の知見)をAPI化し、AIが利用できる状態に整備することが、競争優位につながります。

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