TechRadarに掲載された「プロの写真家がChatGPTに自分の写真を批評させてみた」という記事は、生成AIの画像認識能力(マルチモーダル機能)の現在地を端的に示しています。AIは構図や技術的な「正解」を指摘できる一方で、文脈や芸術的意図をどこまで理解できるのでしょうか。本稿では、この事例を足がかりに、日本企業が画像・動画などの視覚データをビジネスプロセスに組み込む際の要諦と、人とAIの適切な役割分担について解説します。
「平均点」を出すのが得意なAI、意図を汲むのが得意な人間
元記事では、プロの写真家がChatGPT(GPT-4の画像認識機能)に対し、自身の作品に対する批評(レビュー)を求めた実験について詳述されています。結果として得られたのは、構図のルール(三分割法など)や露光バランスに基づいた「教科書的に正しい指摘」でした。しかし同時に、そのフィードバックは「一般的(Generic)」であり、写真家がその瞬間に込めた独自の意図や、微妙な感情の機微までは踏み込めていないという限界も浮き彫りになりました。
これはビジネスにおけるAI活用において非常に重要な示唆を含んでいます。現在のマルチモーダルAI(テキストだけでなく画像や音声も理解するAI)は、膨大な学習データに基づき、一般的な「良し悪し」や「パターン」を識別することには長けています。しかし、そこにある「なぜ(Why)」という文脈や、ブランド固有の「らしさ」、あるいは日本企業が大切にする「行間を読む」ようなニュアンスの理解には、依然として課題が残ります。
視覚情報の「一次選別」としてのビジネス活用
では、この「一般的だが正確な指摘ができる」という特性を、日本企業のビジネスにどう応用すべきでしょうか。最も実用的なアプローチは、AIを「優秀なジュニア・アシスタント」として配置し、品質管理(QA)の一次フィルターとして活用することです。
例えば、ECサイトや不動産ポータルサイトを運営する企業において、ユーザーや加盟店から投稿される膨大な画像を考えてみましょう。「商品が中央に写っているか」「明るさは十分か」「不適切なものが写り込んでいないか」といった基本的な品質チェックは、これまで人海戦術で行われてきました。これをAIに任せることで、人間はより高度な判断——例えば「この写真がブランドの世界観に合致しているか」「顧客の購買意欲をそそる魅力があるか」といった定性的な評価——に集中することができます。
「暗黙知」の形式知化とガバナンス
日本企業、特に製造業や職人文化の強い現場では、品質基準がベテラン社員の「眼(暗黙知)」に依存しているケースが少なくありません。AI活用を進める過程は、この暗黙知を言語化し、プロンプト(指示文)やガイドラインとして「形式知」に落とし込む作業でもあります。
元記事の写真家が感じた「物足りなさ」は、AIに対する指示の具体性が不足していた可能性もあります。「プロとして批評して」ではなく、「〇〇というテーマの展示会用写真として、感情表現の観点から批評して」と指示すれば、結果は変わったかもしれません。企業での活用においても同様で、漠然とAIに判断させるのではなく、「自社の安全基準第3条に基づいて画像をチェックせよ」といった具体的なガバナンスを効かせた指示設計が、実用化の鍵を握ります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例から、日本企業のリーダーや実務担当者は以下の3点を意識してAI実装を進めるべきでしょう。
1. 「技術的評価」と「感性的評価」の分離
AIは構図の崩れやノイズの有無といった技術的な評価には極めて有効です。一方、日本市場で重視される「おもてなし」や「情緒的価値」に関わる最終判断は、Human-in-the-Loop(人間がループに入る仕組み)として、必ず人の眼を通すフローを残すべきです。
2. 評価基準の言語化による標準化
AIを導入するプロセスを通じて、社内に眠る「熟練者の判断基準」を言語化・マニュアル化することが可能です。これはAI活用以前に、組織の属人化を防ぎ、業務標準化を進める副次的なメリットも生み出します。
3. 「一般的」であることのリスク管理
AIの出力は学習データの平均値に寄る傾向があります。クリエイティブな領域や新規事業開発においてAIの意見を鵜呑みにすると、当たり障りのない「コモディティ化した」アウトプットになるリスクがあります。AIはあくまで「壁打ち相手」や「抜け漏れチェッカー」として位置づけ、意思決定の主体は人間が持つという原則を組織文化として定着させることが重要です。
