17 1月 2026, 土

AI投資は「インフラ」から「応用」のフェーズへ——2025年、日本企業が直視すべきAI革命の次なる波

米国の著名アナリスト、ダン・アイブス氏が指摘する「AI革命の派生(Derivative)」というキーワード。それは、GPUや基盤モデルの競争から、具体的なソフトウェアやサービスでの価値創出へと焦点が移ることを示唆しています。本稿では、この潮流が日本の産業界にどのような意味を持つのか、実務的な視点から解説します。

「AI革命の派生」が意味するもの

米Wedbush Securitiesの著名アナリスト、ダン・アイブス氏は、来たる年のAI市場の展望について「AI革命の派生(derivative)に関するものになる」と語りました。これは、NVIDIAに代表される半導体やインフラストラクチャへの集中的な投資フェーズ(第1波)から、そのインフラを活用して具体的なビジネス価値を生み出すソフトウェアやアプリケーションのフェーズ(第2波以降)へと、市場の関心と資金がシフトしつつあることを示唆しています。

2023年から2024年にかけて、多くの企業が大規模言語モデル(LLM)の導入やPoC(概念実証)に奔走しました。しかし、2025年以降に問われるのは「GPUを何枚確保したか」や「どのモデルを使っているか」ではなく、「そのAIを使ってどれだけ実務を変革し、収益化したか」という具体的な成果です。

汎用モデルから「バーティカルAI」と「エージェント」へ

この「派生」のフェーズにおいて、グローバルで注目されているのが「バーティカルAI(特定業界特化型AI)」と「エージェント型AI」です。ChatGPTのような汎用的なチャットボットは便利ですが、企業の複雑な業務フローを完遂するには限界があります。

これに対し、医療、法務、製造、金融など、特定の業界知識や商習慣を学習させたバーティカルなモデルやアプリケーションは、現場の即戦力として期待されています。また、単に質問に答えるだけでなく、ユーザーの指示に基づいてツールを操作し、タスクを自律的に実行する「AIエージェント」の実装も進んでいます。

日本企業にとって、この動きは追い風と言えます。日本の強みである「現場の暗黙知」や「きめ細かいオペレーション」をAIに学習させ、SaaSや社内システムに組み込むことで、労働人口減少という深刻な課題に対する現実的な解となる可能性があるからです。

実務実装における「ラストワンマイル」の壁

一方で、「派生」フェーズへの移行は、技術的な難易度が変化することを意味します。プロンプトエンジニアリングだけで解決できる課題は減り、RAG(検索拡張生成)の精度向上や、既存システムとのAPI連携、MLOps(機械学習基盤の運用)の整備といった、エンジニアリングの「ラストワンマイル」が成否を分けます。

また、コスト管理(FinOps)の視点も重要です。LLMのAPI利用料やクラウドコストは、本格展開に伴い指数関数的に増大するリスクがあります。無闇に最高性能のモデルを使うのではなく、タスクの難易度に応じて軽量なモデル(SLM)を使い分けるなどの最適化が、プロダクト担当者やエンジニアには求められます。

ガバナンスと日本独自の商習慣への対応

AIがアプリケーション層に深く入り込むほど、ガバナンスと責任分界点の問題はシビアになります。AIが誤った発注を行った場合や、顧客に対して不適切な回答をした場合の責任をどう設計するか。これは技術だけの問題ではなく、法務やコンプライアンス部門を巻き込んだ組織的な合意形成が必要です。

特に日本企業では、稟議制度や文書主義といった独自の文化があります。AIを導入する際、単に海外製のツールをそのまま入れるのではなく、日本の組織文化や「確認・承認」のプロセスにどうAIを適合させるか、あるいはAIに合わせてプロセス自体をどう刷新するかという、チェンジマネジメントの視点が不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

ダン・アイブス氏の視点を踏まえ、日本のビジネスリーダーや実務者は以下の点に注力すべきです。

1. 「作る」から「使う」への意識転換
自社専用の基盤モデルをゼロから構築することに固執せず、既存の強力なモデルをいかに自社のデータやワークフロー(派生領域)に適合させるかにリソースを集中してください。

2. 現場特化型アプリケーションの深掘り
汎用的な業務効率化(議事録作成など)はコモディティ化します。自社の業界特有の課題(例:特定の検査業務、複雑な見積もり作成など)を解決する「バーティカルな活用」こそが競争優位の源泉となります。

3. リスクベース・アプローチの実践
AI活用を躊躇するのではなく、リスクの大きさに応じて管理レベルを変えるアプローチが有効です。欧州AI規制法や日本のAI事業者ガイドラインなどを参照しつつ、実効性のあるガバナンス体制を構築し、説明責任を果たせる状態で実装を進めてください。

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