Stack Overflowの2025年開発者調査によると、エンジニアによるAIツールの利用率は上昇を続けている一方で、その出力に対する「信頼度」は低下しているという逆説的な傾向が明らかになりました。AIコーディング支援が当たり前になった今、現場で何が起きているのか。その背景と、品質を重視する日本企業が取るべき対策について解説します。
利用拡大の裏で広がる「懐疑心」
エンジニア向けQ&Aコミュニティの最大手であるStack Overflowが発表した「2025 Developer Survey」の結果は、生成AIの普及フェーズが新たな段階に入ったことを示唆しています。記事の冒頭で強調されているのは、「より多くの開発者がAIツールを使用しているが、そのツールに対する信頼は低下している」という事実です。
2023年から2024年にかけての「導入ブーム」を経て、2025年の開発現場ではAIアシスタント(GitHub CopilotやCursorなど)が日常的なツールとして定着しました。しかし、利用経験が深まるにつれ、開発者たちはAIの限界やリスク(ハルシネーションや微妙なバグの混入など)を肌で感じるようになっています。「とりあえずAIに書かせる」ことは容易になりましたが、そのコードが本当に正しいのか、セキュリティホールを含んでいないか、という疑念はむしろ深まっているのです。
生産性と品質のトレードオフ
なぜ利用率は上がるのに信頼は下がるのでしょうか。その要因の一つは、AIが生成するコードの「一見すると正しそうだが、実は動かない、あるいは非効率」という特性にあります。
AIは定型的なコードの記述やドキュメント作成の時間を劇的に短縮します。しかし、複雑なビジネスロジックや、既存のレガシーシステムとの整合性が求められる場面では、文脈を完全に理解しきれないAIが誤ったコードを提案することが多々あります。その結果、エンジニアは「コードを書く時間」を削減できた代わりに、「AIが書いたコードをレビューし、デバッグする時間」を強いられることになります。
特に、「技術的負債(Technical Debt)」の観点からの懸念が高まっています。AIを使えば経験の浅いエンジニアでも大量のコードを生成できますが、それはメンテナンス性の低い「スパゲッティコード」の量産につながるリスクも孕んでいます。信頼度の低下は、こうした現場の実体験に基づいた健全な警戒心の表れと言えるでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
日本の企業文化、特に製造業に代表される「品質へのこだわり」や「現場の責任感」を考慮すると、この調査結果は重要な示唆を含んでいます。
1. 「利用率」をKPIにしない
経営層はAI導入の成果として利用率やコード生成行数を追いがちですが、これは危険です。重要なのは「最終的なアウトプットの品質」と「手戻りの減少」です。AIを使っても品質検査(テストやレビュー)のプロセスは省略できないどころか、むしろ強化する必要があります。
2. 「書くスキル」から「見極めるスキル」へのシフト
エンジニア教育において、コードを一から書く能力だけでなく、AIの提案を批判的に評価し、アーキテクチャ全体の中で適切か判断する「目利き」の能力がより重要になります。日本企業が得意とするOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の中に、AIレビューの観点を組み込むことが推奨されます。
3. ガバナンスと心理的安全性の確保
現場のエンジニアが「AIの提案は怪しいので採用しなかった」と言える心理的安全性を確保することが重要です。「AIを使えばもっと早くできるはずだ」という過度なプレッシャーは、検証不足のコードを本番環境に混入させるリスクを高めます。AIはあくまで「優秀だが時々嘘をつく新人アシスタント」と捉え、最終責任は人間が持つという原則を組織全体で共有することが、日本企業におけるAI活用の成功鍵となるでしょう。
