米AMDが中国市場において、アリババから約6億7,500万ドル(約1,000億円規模)に上るAI向けGPUの大型受注を獲得する可能性が報じられています。このニュースは単なる一企業の業績回復にとどまらず、NVIDIA一強状態だったAIコンピューティング市場における「選択肢の多様化」と「コスト対効果の追求」というグローバルな潮流を象徴しています。日本企業が直面する計算資源不足と高コスト構造に対する解決策として、この動きをどう読み解くべきか解説します。
NVIDIA「一強」体制への挑戦状
生成AIブーム以降、AI開発における計算資源(コンピュート)はNVIDIA製のGPU(H100やA100など)が事実上の標準となってきました。しかし、Seeking Alphaが報じたAMDによる中国市場での大型受注のニュースは、この構図に変化が生じていることを強く示唆しています。アリババのようなハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)がAMD製GPUの採用を拡大している事実は、AMDの最新チップ(Instinct MI300シリーズ等)が、実務レベルでNVIDIAの競合として十分に機能し始めていることの証左と言えます。
これまで多くの企業は、「NVIDIAを選んでおけば間違いない」という安全策を採ってきました。しかし、GPUの供給不足や価格高騰が続く中で、グローバルなトッププレイヤーたちは、調達リスクの分散とコスト最適化のために、マルチベンダー戦略(複数の供給元を持つこと)へ舵を切っています。
ソフトウェアの壁「CUDA」とAMD「ROCm」の現在地
日本国内のエンジニアや意思決定者がAMD製GPUの導入を検討する際、最大の懸念点となるのがソフトウェアエコシステムです。NVIDIAには「CUDA」という強力な開発環境があり、多くのAIライブラリやツールがCUDA前提で最適化されています。これがNVIDIAの強力な「堀(Moat)」となっていました。
一方で、AMDはオープンなプラットフォームである「ROCm(Radeon Open Compute)」の改良を急ピッチで進めています。PyTorchやTensorFlowといった主要フレームワークにおけるAMD GPUのサポートは、ここ数年で飛躍的に安定しました。特に、大規模言語モデル(LLM)の推論やファインチューニングといった標準的なワークロードにおいては、コードの変更を最小限に抑えて移行できるケースが増えています。
アリババのような技術力のある企業が採用に動く背景には、ハードウェアのコストパフォーマンスだけでなく、こうしたソフトウェア環境の成熟も寄与していると考えられます。
日本企業が直面する「円安・電力・調達難」の三重苦
視点を日本国内に向けると、AIインフラの構築は深刻な課題に直面しています。歴史的な円安による調達コストの増大、データセンターの電力不足、そして最新GPUの納期遅延です。これらを背景に、高価なNVIDIA製GPUのみに依存し続けることは、事業の採算性を圧迫するリスク要因となりつつあります。
特に、生成AIを活用したSaaS開発や社内業務効率化のための推論環境(Inference)においては、必ずしも最高峰のスペックが必要とは限りません。コストパフォーマンスに優れたAMD製GPUや、クラウドベンダー独自開発のチップ(AWS Trainium/Inferentiaなど)を適材適所で組み合わせる「ハイブリッドなインフラ戦略」が、これからのCTOやプロダクトマネージャーに求められる資質となるでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
今回のAMDの動向とグローバルな潮流を踏まえ、日本企業は以下の3点を意識してAI戦略を構築すべきです。
1. 「とりあえずNVIDIA」からの脱却とPoCの実施
高価なGPUを指名買いする前に、クラウド上で提供されているAMDインスタンスなどを利用し、自社のワークロード(学習や推論)が正常に動作するか技術検証(PoC)を行うべきです。特に推論用途では、他社製チップでも十分な性能が出るケースが多く、大幅なコスト削減につながる可能性があります。
2. ソフトウェアスタックの抽象化
特定のハードウェア(CUDA)に過度に依存したコードを書くのではなく、PyTorchなどのフレームワークレベルでの抽象化を意識した開発体制を整えることが重要です。これにより、将来的にハードウェアを切り替える際のスイッチングコストを低減できます。
3. 調達リスク管理としてのマルチベンダー化
米中対立などの地政学リスクにより、特定の半導体製品の供給が突然停止したり、価格が急騰したりするリスクは消えません。BCP(事業継続計画)の観点からも、単一ベンダーに依存しないインフラ調達ルートや、代替案のシミュレーションを平時から持っておくことが、安定したAIサービス提供の鍵となります。
