22 1月 2026, 木

「返品不正」と戦うAI:UPS傘下企業の事例から見るリバースロジスティクスの高度化と日本の課題

米国大手物流UPS傘下のHappy Returnsが、AIを活用して小売業者の返品不正検知に取り組んでいます。EC市場の拡大に伴い増加する「返品コスト」と「不正リスク」に対し、日本企業はどのようにテクノロジーで対抗し、オペレーションを最適化すべきか、国内の法規制や商習慣を交えて解説します。

米国で深刻化する「返品不正」とAIによる対抗策

米国FOXビジネスの報道によると、UPSの子会社であるHappy Returnsは、AIを活用して小売業者の返品監査を行っています。これは、単なる物流管理を超え、正当性のない返品(不正返品)を自動的に検知・フラグ付けする取り組みです。

米国では「ワードロービング(衣類を一度着用してから返品する行為)」や「空箱返品」といった不正が小売業者の利益を大きく圧迫しており、全米小売業協会(NRF)の報告でもその損失額は年間数兆円規模に上るとされています。これに対し、すべての返品を目視で検知することは人件費の観点から現実的ではありません。そこで、膨大な取引データから不正のパターンを学習したAIモデルが、リスクの高い返品を自動抽出する仕組みが導入されています。

不正検知AIの技術的アプローチと運用の難しさ

こうしたシステムでは、一般的に機械学習の「異常検知(Anomaly Detection)」や「リスクスコアリング」の技術が用いられます。顧客の過去の購入・返品履歴、端末情報、返品の頻度やタイミングなどの変数を分析し、通常の顧客行動から逸脱したパターンを検出します。

しかし、技術的な課題も残ります。最大の課題は「偽陽性(False Positive)」、つまり善良な顧客を誤って不正と判定してしまうリスクです。AIが過剰に厳格な判定を行えば、優良顧客の体験(CX)を損ない、ブランド毀損につながりかねません。そのため、AIはあくまで「疑わしい取引のフラグ立て」に留め、最終的な判断や、閾値(しきいち)の設定には人間が介在する「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)」の設計が、実務上は不可欠となります。

日本市場における「おもてなし」と「防衛」のバランス

日本国内に目を向けると、商習慣の違いから米国ほどあからさまな返品不正は多くないと言われてきました。しかし、越境ECの拡大や消費者行動の変化に伴い、国内でも返品率は上昇傾向にあります。加えて、日本企業にとって切実なのは「物流の2024年問題」に代表される人手不足です。

日本の小売・EC事業者は「お客様は神様」という文化背景から、返品対応においても性善説に基づいた手厚いオペレーションを維持してきました。しかし、限られたリソースの中で、全てのリクエストに人力で対応することは限界を迎えつつあります。AIを活用して「明らかなリスク」を自動で排除し、人間が対応すべき「正当な問い合わせ」にリソースを集中させることは、コスト削減だけでなく、サービス品質の維持という観点からも重要です。

個人情報保護法とガバナンスへの配慮

日本で顧客の行動データをAI分析にかけて「不正判定」を行う場合、個人情報保護法への配慮が必須です。特に、プロファイリングによってサービスの利用を拒否するような活用を行う場合、利用規約での明確な通知や、プライバシーポリシーでの透明性確保が求められます。

また、AIがなぜその取引を不正と判断したのかという「説明可能性(Explainability)」も、トラブル時の対応において重要になります。ブラックボックス化したAIモデルをそのまま適用するのではなく、判定根拠を追跡できるログ管理やガバナンス体制の構築が、日本企業には特に求められます。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例から、日本のEC・小売・物流業界のリーダーが得られる示唆は以下の通りです。

  • 「守りのAI」としての活用検討:生成AIによるコンテンツ作成などの「攻め」だけでなく、不正検知や在庫最適化といった「守り」の領域でのAI導入は、ROI(投資対効果)が算出しやすく、着実なコスト削減につながります。
  • リバースロジスティクスの自動化:返品物流(リバースロジスティクス)は利益を生まないコストセンターと見なされがちですが、AIによる自動査定を導入することで、検品コストの削減と再販までのリードタイム短縮が可能になります。
  • 段階的な導入とハイブリッド運用:いきなりAIに全ての判断を委ねるのではなく、まずは「リスクスコアの可視化」から始め、担当者の判断支援ツールとして導入することを推奨します。これにより、現場の納得感を得ながらAIの精度をチューニングできます。
  • コンプライアンスの遵守:不正検知を行う際は、法務部門と連携し、データの利用目的が適切に消費者に通知されているかを確認してください。

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