22 1月 2026, 木

自律型AI(Agentic AI)が変える顧客体験:旅行予約の自動化から見る「対話」から「実行」への転換

米PYMNTSの最新データによれば、消費者の約4人に1人が「AIエージェントによる旅行計画・予約」を受け入れる意向を示しています。これは生成AIの活用フェーズが、単なる「情報検索・要約」から、具体的なタスクを完遂する「自律的な実行(Action)」へと移行しつつあることを示唆しています。本稿では、旅行業界の事例を端緒に、日本企業が自律型AIエージェントを導入する際の可能性と、直面する特有の課題について解説します。

生成AIは「話す」から「動く」フェーズへ

生成AIブームの初期、多くの企業はチャットボットによる「対話」や「社内ナレッジ検索」に注力してきました。しかし、現在グローバルで注目されているのは「Agentic AI(自律型AIエージェント)」です。これは、人間が細かく指示を出さなくとも、AIが自らタスクを分解し、適切なツール(APIやウェブ検索など)を使い分けてゴールを達成する技術を指します。

PYMNTSの調査で示された「消費者の約25%がAIによる旅行計画・予約に抵抗がない」という事実は、AIに対する信頼の醸成と、複雑なタスク処理への期待を表しています。単に「京都のおすすめホテルを教えて」と回答を得るだけでなく、空室状況を確認し、予算内で予約を完了させ、新幹線のチケットまで手配するという「実行能力」が求められているのです。

旅行業界が先行する理由と技術的背景

旅行計画は、検索、比較、決済、スケジュール調整といった複数のタスクが絡み合う複雑なプロセスです。これまでもOTA(オンライントラベルエージェント)は存在しましたが、従来のシステムはあくまでユーザーが主体的に検索条件を入力する必要がありました。

Agentic AIの強みは、大規模言語モデル(LLM)の推論能力を活用し、曖昧な要望(例:「来週末、静かで温泉がある場所に行きたい。予算は一人5万円」)から具体的なプランを策定し、外部システムのAPIを叩いて予約を実行できる点にあります。この「Function Calling(関数呼び出し)」と呼ばれる機能の精度向上により、AIはテキストを生成するだけでなく、実際のビジネスロジックを動かすインターフェースになりつつあります。

日本国内での実装における課題:レガシーシステムと「おもてなし」

この潮流を日本国内に適用しようとした場合、いくつかの壁が存在します。第一に「システム連携の壁」です。日本の宿泊施設や交通機関の一部、特に地方の観光資源においては、API連携が未整備であったり、FAXや電話での確認が必要なレガシーシステムが残っていたりします。AIエージェントが活躍するためには、デジタル基盤(DX)の整備が前提条件となります。

第二に「責任分界点」の問題です。AIが誤って喫煙ルームを予約した場合や、キャンセル不可のプランを誤予約した場合の金銭的損失を誰が負うのか。日本の商習慣上、企業側には高い無謬性が求められる傾向があり、ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクをどう制御するかが、サービスリリースの大きなハードルとなります。

第三に、日本特有の「ハイコンテクストなおもてなし」です。効率的な予約だけでなく、行間を読んだ提案や細やかな配慮が求められる日本市場において、AIエージェントがどこまで「気の利いた」行動をとれるかは、UX設計の腕の見せ所となります。

日本企業のAI活用への示唆

旅行業界に限らず、EC、金融、不動産など、複雑な手続きを伴う分野において、Agentic AIの波は確実に押し寄せています。日本企業がこの技術を取り入れるための要点は以下の通りです。

  • APIファーストの徹底:自社サービスをAIエージェントから「操作可能」にするため、外部連携可能なAPIを整備することが急務です。これからのSEO(検索エンジン最適化)は、AIに選ばれるための「AIO(AI最適化)」やAPI公開へとシフトしていきます。
  • Human-in-the-Loop(人間による確認)の維持:特に金銭が絡む予約や決済においては、AIがプランを作成し、最終的な「決定ボタン」は人間が押すというUX設計が、当面のリスク管理として現実的です。
  • ドメイン特化型エージェントの育成:汎用的なLLMに頼り切るのではなく、自社の商材や日本の商習慣に特化したデータで調整(ファインチューニングやRAG構築)を行い、信頼性を担保することが競争優位性になります。

「AIに任せる」という消費者心理の変化を捉え、まずは限定的な範囲からでも「実行するAI」をプロダクトに組み込んでいくことが、次世代のサービス開発において重要になるでしょう。

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