OpenAIがChatGPTに対し、競合であるAnthropic社のClaudeが提供する「Projects」機能に類似した「Skills」と呼ばれる機能をテストしていると報じられました。これはAI活用のトレンドが、単発のプロンプトエンジニアリングから、複数の資料や文脈を前提とした「プロジェクト単位」の作業支援へとシフトしていることを示唆しています。
「GPTs」と「Skills」:アプローチの違いとは
Bleeping Computer等の報道によると、OpenAIは現在、ChatGPTにおいて「Skills」と呼ばれる新しい機能をテストしている模様です。これまでChatGPTのカスタマイズ機能といえば「GPTs」が主流でした。GPTsは、特定の指示書(システムプロンプト)と参照ファイルを組み合わせ、特定のタスク(例:Pythonコードの修正、ロゴ作成など)に特化したボットを作成する機能です。
一方で、今回の報道にある「Skills」は、Anthropic社のLLMであるClaudeが提供している「Projects(アーティファクト)」機能に近いものと推測されています。これは「フォルダベース」のアプローチをとっており、ユーザーはプロジェクトごとにフォルダを作成し、そこに関連するドキュメント、コード、メモなどをまとめて放り込んでおくことができます。AIはそのフォルダ内の情報を「長期的な記憶」や「背景知識」として常に参照しながら対話を行います。
なぜ「フォルダベース」が実務で重要なのか
この変化は、エンジニアや企業の意思決定者にとって重要な意味を持ちます。従来のチャット型UIでは、新しいスレッドを立てるたびに前提条件を説明したり、ファイルを再アップロードしたりする必要がありました。しかし、プロジェクト単位でコンテキスト(文脈)を保持できるようになれば、以下のような業務フローが可能になります。
例えば、システム開発の現場であれば、要件定義書、基本設計書、そして既存のソースコード群を一つの「プロジェクト」としてAIに認識させます。その上で「この機能を追加したい」と指示すれば、AIは過去の経緯やコーディング規約を理解した上で回答を生成します。これは簡易的なRAG(検索拡張生成)環境を、エンジニア自身が手元で即座に構築できることを意味します。
日本企業における「暗黙知」とAI活用
日本企業、特に歴史のある組織では、業務マニュアルや過去の稟議書など、膨大なドキュメントが存在する一方で、それらを横断的に検索・活用する仕組みが整っていないケースが多々あります。また、日本的な「阿吽の呼吸」や「行間を読む」文化は、明文化されていないコンテキストへの依存度が高いとも言えます。
もしChatGPTやClaudeのような主要LLMが、手軽に「部署ごとのフォルダ」や「案件ごとの資料群」をコンテキストとして扱えるようになれば、新人担当者が過去のドキュメントセットをAIに読み込ませ、「当社の規定に沿ってドラフトを作成して」と指示するだけで、一定品質の成果物を出せるようになります。これは、日本の組織課題である「属人化の解消」や「ナレッジ継承」に寄与する可能性があります。
セキュリティとガバナンスの課題
しかし、利便性の向上はリスクと隣り合わせです。「関連資料をフォルダに放り込むだけで良い」という手軽さは、誤って機密情報や個人情報を含んだファイルをアップロードしてしまうリスクを高めます。
企業として導入する際は、これらの「プロジェクト」や「スキル」機能にアップロードされたデータが、AIモデルの学習に利用されるのか否か(オプトアウト設定)を厳格に確認する必要があります。また、アクセス権限の管理も重要です。誰がそのプロジェクト知識ベースにアクセスできるのか、社外秘情報が混入しない運用ルールをどう設計するかが、IT部門や法務部門の腕の見せ所となります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のOpenAIの動きは、AIが単なる「賢いチャットボット」から、「文脈を共有するチームメイト」へと進化していることを示しています。日本企業の実務担当者は以下の点を意識すべきでしょう。
1. プロンプト技術から「データ整理」へのシフト
AIをうまく使うためのスキルは、巧みな命令文を書くこと(プロンプトエンジニアリング)から、AIに読み込ませるドキュメントを整理・構造化すること(データプレパレーション)へ重点が移りつつあります。
2. 業務単位での「AIワークスペース」の設計
全社統一の巨大な社内検索システムを構築する前に、部署やプロジェクト単位で「AIに参照させるべき最小限のドキュメントセット」は何あたるのかを定義し、小規模に活用検証を始めるのが現実的です。
3. ガバナンスルールの再点検
「ファイルをアップロードして分析させる」行為が日常化することを前提に、DLP(データ損失防止)ツールの導入や、従業員へのデータ取り扱いガイドラインの周知を急ぐ必要があります。
