生成AIの進化は、単なる対話型ツールから、自律的にタスクを遂行する「エージェンティックAI(Agentic AI)」へと向かっています。米国の法務系メディアLexologyのポッドキャストでは、Googleの次世代モデルGemini 3などの動向を踏まえ、2026年を見据えた法とAIの関係性が議論されています。本稿では、AIが「行動」主体となる未来において、日本企業が直面するガバナンスと法的リスク、そして今から準備すべき実務的対応について解説します。
生成AIの次のフェーズ、「エージェンティックAI」の台頭
現在、多くの日本企業で導入が進んでいる生成AI(Generative AI)は、主に文章作成や要約、コード生成といった「コンテンツ生成」のアシスタントとして機能しています。しかし、GoogleのGeminiシリーズやOpenAIの最新モデルの進化の方向性は、明確にその先を見据えています。それが「エージェンティックAI(Agentic AI)」です。
エージェンティックAIとは、ユーザーの指示に基づき、AIが自律的に計画を立て、外部ツールやAPIを操作し、一連の業務プロセスを完遂するシステムを指します。例えば、「来週の出張手配をして」と頼めば、フライトの検索から予約、ホテルの確保、カレンダーへの登録、関係者へのメール通知までを、人間が介在することなくAIが実行するイメージです。2026年頃には、こうした自律型エージェントがエンタープライズ環境でも実用段階に入ると予測されています。
「実行」するAIがもたらす新たな法的リスク
AIが単にテキストを出力するだけでなく、現実世界で「アクション」を起こすようになると、企業が負うべきリスクの質が変わります。これまでのAIガバナンスは、主に「誤情報(ハルシネーション)のチェック」や「著作権侵害の防止」に焦点が当てられていました。しかし、エージェンティックAIにおいては、「AIが行った法的拘束力のある行為(契約、発注、決済など)の責任を誰が負うのか」という問題が浮上します。
もしAIエージェントが誤って大量の商品を発注してしまったり、差別的な条件で採用候補者をフィルタリングして不採用通知を送ったりした場合、企業はその責任を免れることはできません。2026年に向けては、AIの判断ロジックの透明性確保に加え、AIに付与する権限(アクセス権や決済上限)の厳格な管理(権限分掌)が、情報セキュリティだけでなく法務上の最重要課題となります。
日本の商慣習と「Human-in-the-loop」の重要性
日本企業、特に大手企業の組織文化においては、意思決定のプロセスと責任の所在が重視されます。稟議制度に代表されるように、合意形成を重んじる日本の商慣習において、完全に自律したAIエージェントをそのまま業務フローに組み込むことは、心理的・実務的なハードルが高いと言えます。
そのため、日本ではAIエージェントがすべての工程を自動化するのではなく、重要な意思決定や最終承認のステップには必ず人間が介在する「Human-in-the-loop(人間参加型)」の設計が、欧米以上に求められるでしょう。AIはあくまで起案者や準備担当者として振る舞い、最終的な「ハンコ」は人間が押すという運用設計が、リスク管理と現場の受容性の両面から現実的な解となります。
日本企業のAI活用への示唆
2026年のエージェンティックAI時代を見据え、日本企業のリーダーや実務担当者は以下の点に着目して準備を進めるべきです。
- ガバナンスの視点を「出力」から「行動」へ拡張する:
生成物のチェックだけでなく、AIにどのようなシステム操作権限を与えるか、どの範囲まで自律実行を許可するかという「権限管理」のポリシーを策定し始める必要があります。 - 業務プロセスのデジタル化とAPI連携:
AIエージェントが働くためには、社内システムがAPIで連携可能になっている必要があります。レガシーシステムのモダナイゼーションは、AI活用的前提条件となります。 - 責任分界点の明確化:
AIベンダー、システムインテグレーター、そしてユーザー企業の間で、AIが予期せぬ動作をした際の責任分界点を契約レベルで再確認する必要があります。特に海外製のモデルやサービスを利用する場合は、準拠法や免責条項に注意が必要です。 - 「AIとの協働」を前提とした人材育成:
AIに丸投げするのではなく、AIが作成した計画や実行内容を監督・修正できる「AIマネジメント能力」を持つ人材の育成が急務です。
技術の進化は待ってくれませんが、法規制や社内ルールが追いつくには時間がかかります。2026年は遠い未来ではありません。今のうちから「自律するAI」を想定した議論を、技術部門だけでなく法務・コンプライアンス部門を巻き込んで開始することが推奨されます。
