24 1月 2026, 土

元諜報員CEOが警告する「AI版WannaCry」の脅威:日本企業が今、セキュリティ戦略で見直すべきこと

かつて世界を震撼させたランサムウェア「WannaCry」のような大規模なセキュリティインシデントが、AI領域でも発生する可能性があります。元諜報員でありセキュリティスタートアップZafranのCEOが発したこの警告は、DXとAI活用を急ぐ日本企業にとって何を意味するのでしょうか。本記事では、AIセキュリティの最新リスクと、日本企業が取るべき現実的な対策について解説します。

「AI版WannaCry」という予言の意味

サイバーセキュリティの世界では、2017年に発生したランサムウェア「WannaCry」によるパンデミックが今も教訓として語り継がれています。世界中のコンピュータが連鎖的に感染し、医療機関や工場が停止に追い込まれました。The Registerの記事によると、元諜報機関出身で、現在は企業のサイバー脅威管理を支援するZafran社のCEO、Sanaz Yashar氏は、「AI版のWannaCryは必ず起こる」と警告しています。

この発言が示唆するのは、AI技術が悪用された場合、攻撃の「自動化」と「規模」がこれまでの比ではなくなるということです。従来のサイバー攻撃は、ハッカーが手動で脆弱性を探したり、ソーシャルエンジニアリング(人の心理的な隙や行動のミスにつけ込む攻撃)を行ったりする要素が強くありました。しかし、生成AIやLLM(大規模言語モデル)が悪用されれば、精巧なフィッシングメールの大量生成や、システムの脆弱性を自律的に探索して攻撃コードを生成する自律エージェントの出現が現実味を帯びてきます。

AIにはAIを:防御側のパラダイムシフト

攻撃側がAI武装を進める一方で、防御側もまたAIを活用しなければ対抗できない時代に入っています。Yashar氏が率いるZafran社のように、企業の脅威エクスポージャー(攻撃にさらされている領域)をAIで可視化し、管理するアプローチが注目されています。

従来、日本企業のセキュリティ対策は「境界防御(ファイアウォールなどで社内と社外を分ける)」や「パッチ管理」が中心でした。しかし、クラウド利用やSaaSの普及、そして社内でのシャドーAI(会社が許可していないAIツールの無断利用)の増加により、守るべき境界は曖昧になっています。人手によるログ監視や対応では、AIによって高速化された攻撃には追いつけません。異常検知や対応の自動化といった「AIによる防御(AI for Security)」の実装が、企業の生存戦略として不可欠になりつつあります。

日本企業特有のリスクと「組織文化」の壁

日本企業において特に懸念されるのは、レガシーシステムと最新AI技術のつぎはぎによるリスクです。古い基幹システムにAPI経由で最新の生成AIを接続するといったケースが増えていますが、これは新たな脆弱性を生む温床になりかねません。また、日本特有の「性善説」に基づく運用や、インシデント発生時の責任追及を恐れるあまり報告が遅れる「隠蔽体質」は、AIによる高速な攻撃拡散において致命的な弱点となります。

さらに、日本ではサプライチェーン全体のセキュリティレベルの不均一さも課題です。大企業が堅牢なAIガバナンスを構築していても、連携する子会社や取引先がAI攻撃の踏み台にされるリスクがあります。AI時代において、セキュリティはもはやIT部門だけの問題ではなく、経営リスクそのものです。

日本企業のAI活用への示唆

グローバルのセキュリティトレンドと日本の現状を踏まえ、意思決定者や実務担当者は以下の3点を意識してAI活用を進めるべきです。

1. 「AIを疑う」ゼロトラストの実践
外部からの攻撃だけでなく、AIが生成したコードやコンテンツ自体に脆弱性や悪意が含まれる可能性を考慮する必要があります。AIが生成したプログラムコードをそのまま本番環境にデプロイしない、AIへの入力データをサニタイズ(無害化)するなど、開発プロセス(DevSecOps)にセキュリティチェックを組み込むことが重要です。

2. 守りのAI投資と「レジリエンス」の確保
「絶対に侵入されない」ことは不可能です。攻撃を受けることを前提に、被害を最小限に抑え、素早く復旧するための「レジリエンス(回復力)」に投資してください。具体的には、AIを活用したリアルタイムの脅威検知ツールの導入や、AIシステムがダウンした際の代替プロセスの整備が求められます。

3. ガバナンスと現場のバランス
リスクを恐れてAIを一律禁止にすれば、現場は隠れてシャドーAIを使い始め、かえってリスクが高まります。日本企業に必要なのは、禁止ではなく「安全な利用ガイドライン」の策定と、サンドボックス(隔離された検証環境)の提供です。従業員が堂々とAIを試し、リスクを報告できる「心理的安全性」の高い組織文化こそが、AI版WannaCryに対抗する最強の防御壁となります。

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