世界的な金融機関であるバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY)が、Google CloudのGeminiを採用し、社内AI基盤での「エージェント型AI」の活用を拡大しました。規制の厳しい金融業界での本格導入は、生成AIの活用フェーズが単なる「対話」から、複雑なタスクを遂行する「実務代行」へと移行しつつあることを示しています。
金融セクターが「エージェント型AI」へ舵を切る意味
米国最古の銀行の一つであるBNY(バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)が、同行の全社的AIプラットフォーム「Eliza」にGoogle Cloudの「Gemini Enterprise」を統合したというニュースは、エンタープライズAIの潮流における重要な転換点を示唆しています。これまで多くの企業が導入してきたのは、主に情報の検索や要約を行う「チャットボット」でした。しかし、BNYが目指しているのは「エージェント型AI(Agentic AI)」による業務変革です。
エージェント型AIとは、単に人間からの質問に答えるだけでなく、与えられた目的を達成するために自律的に推論し、複数のツールやシステムを操作してタスクを完遂するAIを指します。例えば、「市場データを分析してレポートを書く」だけでなく、「不足しているデータを外部DBから取得し、所定のフォーマットに整え、関係者にドラフトをメールする」といった一連のプロセスを担うイメージです。信頼性と正確性が何よりも重視される金融機関が、この領域に踏み込んだ事実は重く受け止めるべきでしょう。
「Eliza」に見る社内AIプラットフォームの重要性
BNYの事例で注目すべきもう一つの点は、外部のAIモデルをそのまま従業員に使わせるのではなく、「Eliza」という独自の社内AIプラットフォームに統合している点です。これは日本企業にとっても極めて重要なアプローチです。
日本の商習慣において、情報の機密性やセキュリティは最優先事項です。特定のベンダーのモデル(今回はGemini)に依存しすぎず、自社のガバナンスを効かせた「中間層(プラットフォーム)」を挟むことで、入出力データの監視、個人情報のマスキング、そして将来的なモデルの切り替えや併用が可能になります。BNYが「Eliza」という基盤を持っていたからこそ、最新モデルへのアップグレードやエージェント機能の追加がスムーズに行えたと言えます。
自律性とガバナンスのバランス
エージェント型AIは強力ですが、同時にリスクも伴います。AIが自律的に判断してシステムを操作するということは、予期せぬ挙動や誤ったトランザクション(取引・処理)を引き起こす可能性があることを意味します。特に日本の組織文化では、誰が責任を取るのかという「アカウンタビリティ」が厳格に問われます。
実務においては、AIにすべての決定権を委ねるのではなく、「Human-in-the-loop(人間が介在する仕組み)」の設計が不可欠です。AIはあくまでドラフト作成や下準備を行い、最終的な承認や実行ボタンを押すのは人間である、というプロセスを確立することで、リスクを管理しつつ生産性を向上させることができます。
日本企業のAI活用への示唆
BNYの事例を踏まえ、日本の経営層や実務担当者は以下の点に着目してAI戦略を進めるべきです。
1. チャットボットからの脱却と業務プロセスの見直し
「何でも聞けるチャット」を導入して終わりにするのではなく、特定の業務フロー(例:経費精算、融資審査の一次スクリーニング、コードレビュー)において、AIが自律的に処理できる範囲を特定し、エージェント化を検討してください。
2. 共通AI基盤の整備
個別の部署がバラバラにAIツールを導入するのではなく、全社共通のセキュアなAI基盤(ゲートウェイ)を構築してください。これにより、ガバナンスを維持しながら、GeminiやGPT-4などの最新モデルを柔軟に組み込むことが可能になります。
3. リスクベース・アプローチによる段階的導入
金融機関でさえエージェント型AIを活用し始めています。「リスクがあるから使わない」のではなく、リスクの低い社内業務からエージェントを適用し、AIの挙動と監査ログを監視する体制を整えることが、競争力を維持する鍵となります。
