21 1月 2026, 水

業務特化型AIエージェントの「選別」が鍵に──Creatioの事例から見るマルチエージェント活用の本質

ローコードプラットフォームCreatioの最新アップデート(バージョン8.3.2)では、ユーザーの要求に応じて最適なAIエージェントを自動的に選定・振り分けるロジックが強化されました。単一の巨大なAIモデルに全てを任せるのではなく、役割分担された複数のエージェントを束ねる「オーケストレーション」の重要性が高まっています。本稿では、この技術トレンドを背景に、日本企業がAIエージェントを業務プロセスに組み込む際に意識すべき設計思想とガバナンスについて解説します。

Creatioのアップデートに見る「コンテキスト認識」の深化

米国のCRM・ローコード開発プラットフォームであるCreatioは、バージョン8.3.2へのアップデートにおいて「AIエージェント選択ロジック」の改良を発表しました。具体的には、ユーザーからの最初のメッセージだけでなく、より豊富な「コンテキスト(文脈・背景情報)」を参照することで、そのリクエストを処理するのに最も適したAIエージェントを選び出す機能が強化されています。

これは技術的に些細な変更に見えるかもしれませんが、企業向けAI活用の文脈では非常に重要な意味を持ちます。初期のチャットボットや生成AI実装では、ユーザーの入力文(プロンプト)のみに依存して回答を生成することが一般的でした。しかし、実務においては「誰が(役職・部門)」「どの業務フローの中で(商談中・契約更新時)」問い合わせているかによって、必要な情報は全く異なります。今回のアップデートは、AIが単に言葉を理解するだけでなく、業務の文脈を理解し、適切な専門機能(エージェント)へつなぐ「ルーティング能力」が競争の焦点になりつつあることを示唆しています。

「何でも屋」から「専門家チーム」へ:マルチエージェント化の潮流

現在、世界のAI開発トレンドは、一つの巨大なLLM(大規模言語モデル)にあらゆるタスクを処理させるアプローチから、特定のタスクに特化した複数の「AIエージェント」を協調させる「マルチエージェント・システム」へとシフトしています。

例えば、「法務チェックエージェント」「在庫確認エージェント」「顧客対応エージェント」といった専門特化型のAIを用意し、ユーザーの指示に応じて司令塔となるAI(オーケストレーター)が作業を割り振る仕組みです。この際、最も重要になるのが「どのエージェントに任せるか」という判断精度です。

日本企業、特に組織が縦割りで役割分担が明確な大企業においては、このマルチエージェント型のアプローチは組織構造と親和性が高いと言えます。しかし、振り分けの精度が低いと、「経理の質問を人事エージェントに投げてしまう」ような非効率や、誤った情報参照によるハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクが増大します。したがって、今回のニュースにあるような「コンテキストに基づいた選択ロジック」の高度化は、実用化の必須条件となります。

日本企業における実装課題:暗黙知とデータ整備

日本企業がこの「エージェント選択ロジック」を自社システムやプロダクトに組み込む際、最大の壁となるのが「コンテキストのデータ化」です。

日本のビジネス現場では、ハイコンテクスト文化特有の「あうんの呼吸」や、明文化されていない商習慣(暗黙知)が多く存在します。AIエージェントに適切な判断をさせるためには、ユーザーの属性、過去の履歴、現在の業務ステータスなどを、AIが読み取れる形式で構造化データとして渡す必要があります。

また、ガバナンスの観点からも注意が必要です。AIが勝手に判断してエージェントを選択するプロセスがブラックボックス化すると、なぜその回答に至ったかの説明責任(Accountability)が果たせなくなります。金融や医療など規制の厳しい業界では、AIがどのエージェントを選択したかのログを追跡可能にし、場合によっては人間が介入できる「Human-in-the-loop」の設計を残しておくことが求められます。

日本企業のAI活用への示唆

Creatioのアップデート事例は、単なる機能追加ではなく、AI活用のフェーズが「対話」から「実務代行(エージェント)」へ移行していることを示しています。日本の実務担当者は以下の点に着目すべきです。

  • 単一モデル依存からの脱却:汎用的なLLM一つですべてを解決しようとせず、業務ごとに特化したエージェント(または専用のプロンプト/RAGパイプライン)を設計し、それらを束ねるアーキテクチャを検討してください。
  • 「つなぎ目」の設計と品質管理:エージェント自体の性能だけでなく、ユーザーの意図を汲み取り適切なエージェントに振り分ける「ルーター(司令塔)」のロジック構築にリソースを割く必要があります。
  • 文脈情報のデータ化:AIの精度を上げるために、社内の業務プロセスやユーザー属性をデジタルデータとして整備し、AIが参照可能な「コンテキスト」として提供できる基盤(データレイクやAPI連携)を整えることが急務です。
  • 過度な自動化への警戒:エージェント選択のミスは業務遅延やセキュリティリスク(権限のないエージェントへのデータ渡し)に直結します。特に導入初期は、AIの判断に対するモニタリング体制を維持し、段階的に自律度を高めるアプローチが推奨されます。

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