20 1月 2026, 火

米金融大手BNYのGoogle Gemini採用事例から読み解く、「エージェント型AI」の実用化と金融業界の現在地

世界的な金融大手であるBNY(旧バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)が、Google Cloudの「Gemini」を自社のAIプラットフォームに統合することを発表しました。この事例は、生成AIの活用フェーズが単なるテキスト生成から、複雑な業務プロセスを遂行する「エージェント型AI」へと移行しつつあることを象徴しています。規制の厳しい金融セクターでの導入事例をもとに、日本企業が大規模言語モデル(LLM)を実務に組み込む際のポイントを解説します。

金融大手が挑む「エージェント型AI」の実装

BNYによるGoogleの生成AIモデル「Gemini」の採用は、単なるツールの導入以上の意味を持ちます。BNYは、同行の既存のAIプラットフォームである「Eliza」にGeminiを統合することで、AIの能力を大幅に拡張しようとしています。ここで注目すべきキーワードは「エージェント型AI(Agentic AI)」です。

これまでの生成AI活用は、ユーザーの質問に対してテキストで回答を生成する「チャットボット」形式が主流でした。しかし、エージェント型AIは、ユーザーの目標を理解し、必要なツールを選択し、推論を行い、複数のステップを経てタスクを自律的(または半自律的)に遂行する能力を持ちます。金融機関のような複雑なワークフローが存在する環境において、AIが単なる「検索・要約係」から「業務遂行のパートナー」へと進化しようとしているのです。

なぜ規制産業でGoogle CloudのGeminiが選ばれたのか

金融業界は、医療や法務と並び、データの機密性やコンプライアンスに関して最も厳しい規制が課される分野の一つです。BNYのような世界的な金融機関がパブリッククラウドベンダーの基盤モデルを採用するという事実は、エンタープライズグレードのセキュリティとガバナンスへの信頼性が一定の閾値を超えたことを示唆しています。

Google Cloudは、学習データと企業固有のデータを明確に分離し、入力データがモデルの再学習に使われないことを保証する強固なデータガバナンス機能をアピールしています。また、Geminiはマルチモーダル(テキストだけでなく画像や数値データも扱える)な特性と、長いコンテキストウィンドウ(一度に処理できる情報量)を持つため、膨大な金融レポートや複雑な契約書の分析に適しているという技術的な側面も採用の決め手となったと考えられます。

実務適用における課題とリスク管理

一方で、LLMを金融業務のコアプロセスに組み込むことには依然としてリスクが伴います。最大の課題は「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」です。金融取引や投資助言において、AIが誤った情報を生成することは許されません。

そのため、実務においては「RAG(検索拡張生成)」技術などを用いて、AIの回答を社内の信頼できるデータベースや規定集に基づかせる(グラウンディングする)仕組みが不可欠です。また、エージェント型AIが勝手に誤った送金や取引を実行しないよう、最終的な承認プロセスには必ず人間が介在する「Human-in-the-loop」の設計が求められます。BNYの事例においても、AIはあくまで専門家の支援ツールとして位置づけられており、完全な自動化への道のりは慎重に進められています。

日本企業のAI活用への示唆

今回のBNYの事例は、日本の金融機関や大手企業にとっても重要なベンチマークとなります。日本国内のAI導入に向けた具体的な示唆は以下の通りです。

1. 「チャット」から「業務フローへの組み込み」への転換
多くの日本企業では、社内向けChatGPTのような汎用チャットツールの導入は一巡しました。次は、特定の業務フロー(例:融資審査の一次スクリーニング、法規制対応のドキュメントチェックなど)に特化したエージェント型AIの開発が焦点となります。

2. 閉域網・国内法規制に対応したガバナンス設計
日本の金融庁や各業界団体のガイドラインに準拠するためには、データレジデンシー(データが保管される場所)やモデルの透明性が重要です。Google CloudやAzure、AWSなどのハイパースケーラーだけでなく、必要に応じてオンプレミスや国産LLMを組み合わせるハイブリッドな構成も検討の余地があります。

3. レガシーシステムとの連携が鍵
日本の金融機関や大企業には、長年稼働しているレガシーシステムが多く存在します。最新のAIエージェントが力を発揮するためには、これらの基幹システムから安全にデータを引き出し、連携させるAPI基盤の整備が、AIモデルの選定以上に重要なエンジニアリング課題となります。

総じて、AI活用は「魔法の杖」を導入することではなく、泥臭いデータ整備とガバナンス構築の上に成り立つものです。BNYのような先行事例を参考にしつつ、自社の業務プロセスとリスク許容度に合わせた着実な実装が求められます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です