AWS(Amazon Web Services)のCEO、Matt Garman氏による「AIで若手社員を置き換えるのはビジネスにとって悪手である」という趣旨の発言が注目を集めています。生成AIによる業務効率化が進む中、日本企業においても「AIがあれば新人は不要ではないか」という議論が散見されます。本稿では、この発言の真意を読み解きつつ、日本の組織構造や商習慣において、AI時代の若手育成と組織設計をどう進めるべきかについて解説します。
短期的なコスト削減の先にある「組織の空洞化」
AWSのCEOであるMatt Garman氏が指摘した「AIによる若手社員の代替はビジネスにとって悪い」という見解は、多くの経営層やマネージャーにとって耳の痛い指摘かもしれません。確かに、コード生成や議事録作成、基礎的なリサーチといったタスクにおいて、AIは若手社員よりも高速かつ安価に成果を出せる場面が増えています。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。組織論の観点から見れば、現在のシニアレベルの専門家は、過去に「下積み」と呼ばれる基礎的な業務を通じて経験を蓄積し、直感や判断力を養ってきました。もしAIによって若手の業務を完全に代替し、採用や育成を止めてしまえば、将来のシニア層、つまり「AIの出力を監督し、高度な意思決定を行う人材」が枯渇することになります。これは中長期的に見て、組織の競争力を著しく削ぐ「組織の空洞化」を招くリスクが高いのです。
AIネイティブ時代のOJTとスキル継承の再定義
特に日本企業においては、OJT(On-the-Job Training)や先輩社員の背中を見て育つといった、現場での暗黙知の共有が人材育成の柱となってきました。AIが単純作業を巻き取ることで、若手が「失敗を通じて学ぶ機会」や「プロセスの全体像を把握する機会」を失う可能性があります。
したがって、これからの若手育成においては、単に「作業」をさせるのではなく、AIが出力した成果物を「検証(レビュー)」し、それを最終的なプロダクトやサービスとして成立させるための「判断」をさせる方向へシフトする必要があります。これは、若手に対し従来よりも早い段階で、品質管理やガバナンス視点を持つことを求めることを意味します。エンジニアであればコードの安全性確認、事務職であれば生成された文章のファクトチェックやコンプライアンス確認などが、新しいOJTの場となるでしょう。
日本独自の「現場力」とAIの共存
Amazonでは先日大規模なレイオフが実施されましたが、Andy Jassy CEOはこれをAIへの置き換えとは無関係であると説明しています。しかし、外部からはAIによる効率化と人員削減の関連性を疑う声も少なくありません。この緊張関係は、日本の労働市場においても同様です。
日本では労働人口の減少が深刻な課題であり、AI活用は「人の代替(コストカット)」よりも「人手不足の解消(生産性向上)」としてのニーズが強くあります。日本企業の強みである「現場力」や「きめ細やかな顧客対応」を維持するためには、AIを「若手を排除するツール」としてではなく、「若手が早期に一人前になるための増強スーツ」として位置づけるべきです。AIを活用して定型業務を圧縮し、浮いた時間を人間にしかできない「文脈の理解」や「対人折衝」のトレーニングに充てる戦略が求められます。
日本企業のAI活用への示唆
AWS CEOの発言と日本の現状を踏まえ、意思決定者やリーダーが意識すべき点は以下の3点に集約されます。
1. 「AIによる代替」ではなく「AIによる拡張」をKPIにする
人員削減数や工数削減のみをAI導入の成功指標にすると、将来のリーダー候補が育たなくなります。「若手社員がAIを使ってどれだけ早く高度な業務に到達できたか」を指標に置く人材開発視点が不可欠です。
2. 「AIレビュー」を新たな教育カリキュラムに組み込む
AIは平然と誤り(ハルシネーション)を含みます。若手にはAIを使わせるだけでなく、「AIの間違いを見抜く基礎力」を徹底して教育する必要があります。これは従来の基礎研修以上に、論理的思考力や専門知識の体系的理解が求められる領域です。
3. 組織の新陳代謝とガバナンスの維持
AIに依存しすぎると、組織全体のコンプライアンス意識やリスク感度が低下する恐れがあります。日本の厳しい商習慣や法規制に対応するためにも、AI任せにせず、最終責任者としての人間が育つ環境(失敗が許容されるサンドボックス環境など)を意図的に設計することが、企業の持続可能性(サステナビリティ)に直結します。
