Google Geminiのような高度なLLMであっても、API経由で利用する際には「現在の日時」を自律的に認識しているわけではありません。本記事では、開発者コミュニティでの議論をもとに、LLMが時間軸をどのように認識するかという技術的特性と、日本企業がビジネスアプリケーションに組み込む際に必須となる「コンテキスト注入」の設計について解説します。
LLMは「今」を知らないという前提
GoogleのGeminiを含む大規模言語モデル(LLM)は、膨大な過去のデータセットに基づいてトレーニングされています。そのため、モデル自体は「学習データがカットオフされた時点までの知識」しか持っておらず、基本的には「今が西暦何年の何月何日なのか」というリアルタイムな時間感覚をネイティブには保持していません。
開発者コミュニティでも度々議論になりますが、Gemini APIを利用する場合、モデルが自動的に現在時刻をコンテキストに含めることはありません。開発者側が明示的にシステムインストラクション(System Instructions)やプロンプトの一部として、`datetime.now()` などの関数で取得した現在日時をテキスト情報として渡す必要があります。これは、OpenAIのGPTシリーズなど他のLLMでも同様の標準的な実装パターンです。
日本独自の商習慣と「時間認識」のリスク
この技術的な仕様は、特に日本のビジネスシーンにおいて重要な意味を持ちます。なぜなら、日本のビジネスコミュニケーションは「季節感」や「正確な日時」に極めて敏感だからです。
例えば、顧客対応チャットボットを開発する場合を考えてみましょう。現在日時をプロンプトに注入せずに「時候の挨拶を含めたメール案を作成して」と指示した場合、モデルは学習データの中から統計的にそれらしい季節(例えば春の挨拶)を選んで出力してしまう可能性があります。もし実際が秋であれば、ビジネス上の信頼を損なう重大なミスとなります。
また、契約関連の照会システムなどで「この契約は有効か?」と問われた際、基準となる「現在」が与えられていなければ、モデルは正確な回答ができません。AIガバナンスの観点からも、生成された回答が「いつ時点の情報に基づいているか」を制御することは不可欠です。
エンジニアリングによる解決とグラウンディング
解決策はシンプルですが、確実な実装が求められます。APIリクエストを送る際、システムプロンプト(AIへの役割指示)の冒頭に「今日は202X年X月X日 X曜日です」といった情報を動的に挿入します。
さらに高度なアプローチとして、Google検索などの外部ツールと連携させる「グラウンディング(Grounding)」機能を使用する場合、モデルは検索結果を通じて間接的に現在の日付や最新ニュースを知ることができます。しかし、基幹システムと連携するような業務アプリにおいては、外部検索に頼るのではなく、システム内部の正確な時刻をプロンプト経由で厳密に渡す設計が、動作の安定性とセキュリティの観点から推奨されます。
日本企業のAI活用への示唆
今回の「日時の認識」という小さな技術的トピックは、企業がAIを活用する上で以下の重要な示唆を含んでいます。
- 「魔法の箱」として扱わない:AIは何でも知っているわけではありません。前提条件(日時、ユーザー属性、社内用語)は、人間側(システム側)が明示的に与える必要があります。
- プロンプトエンジニアリングの標準化:社内でAIアプリを開発する際は、「現在日時」「ユーザーの文脈」を必ずシステムプロンプトに含めるというガイドラインを策定すべきです。これにより、回答精度のベースラインを向上させることができます。
- リスク管理としてのコンテキスト制御:特に金融や法務など、日時の正確性が法的責任に関わる領域では、AI任せにせず、ルールベースのロジックとAIを組み合わせるハイブリッドな設計が求められます。
