SalesforceがAIエージェントの提供において、従量課金ではなく「シートベース(ユーザー数課金)」のライセンスモデルを選択したことが報じられています。Gartnerが予測する「エージェンティックAI(自律型AI)」の急成長を背景に、企業がAIを導入する際のコスト構造とROI(投資対効果)の考え方に一石を投じる動きです。
Salesforceの価格戦略と「エージェンティックAI」の台頭
海外メディアThe Register等の報道によると、大手SaaSベンダーのSalesforceは、同社のAIエージェント機能の提供において、従来のSaaS同様の「シートベース(利用ユーザー数に応じた定額課金)」のライセンスモデルを採用する方針を示しました。
昨今、生成AIのコストモデルとしては、トークン量やAPIコール数、あるいは解決件数に応じた「従量課金(コンサンプションモデル)」が一般的になりつつありました。しかし、今回の報道は、エンタープライズ領域においては依然として「予測可能な固定コスト」への需要が根強いことを示唆しています。
背景にあるのは、「エージェンティックAI(Agentic AI)」と呼ばれる技術トレンドです。これは、単に質問に答えるだけのチャットボットではなく、複雑なタスクを自律的に計画し実行するAIを指します。Gartnerの予測によれば、このエージェンティックAIが将来的に業務の30%近くを牽引する可能性があるとされています。AIが「ツール」から「労働力」へと進化する中で、その対価をどう支払うべきかという議論が活発化しています。
従量課金か、シートベースか:企業が直面するコストのジレンマ
生成AIの導入において、多くの企業、特に日本の組織が懸念するのは「コストの予実管理」です。
- 従量課金のリスク:利用量に応じて支払うモデルは、スモールスタートには適していますが、AI活用が社内に浸透するにつれてコストが青天井になる「クラウド破産(Cloud Shock)」のリスクを孕んでいます。
- シートベースのメリットと限界:ユーザー数課金は予算化が容易ですが、AIをあまり利用しない従業員の分までライセンス料を支払う「無駄」が生じる可能性があります。また、AIエージェントが人間の代替として自律的に働く場合、「人」の数に基づく課金が実態に即しているかという議論もあります。
Salesforceのようなプラットフォーマーがシートベースを選択したことは、大企業に対して「安心して全社導入してほしい」というメッセージとも受け取れますが、導入企業側は、その定額コストに見合うだけの生産性向上が得られるかを厳密に見極める必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の動向を踏まえ、日本の経営層や実務担当者は以下のポイントを考慮すべきです。
1. 予算管理文化との適合性(稟議・決裁の円滑化)
日本企業の多くは、年度初めに固定予算を確保する商習慣を持っています。変動費としての従量課金AIは稟議が通りにくい傾向にありますが、シートベースのライセンスであれば、既存のIT予算枠組み(SaaS利用料など)の中で処理しやすく、導入スピードを加速できる利点があります。
2. 「利用率」ではなく「成果」に注目したKPI設定
シートベースで契約する場合、「どれだけ使ったか」ではなく「どれだけ業務プロセスが改善されたか」を問う必要があります。単にツールを導入して終わりにするのではなく、AIエージェントによって削減された工数や、向上した顧客対応品質を定量化する仕組みをセットで整備することが、ROI正当化の鍵となります。
3. ベンダーロックインとデータガバナンスへの配慮
特定ベンダーのAIエコシステムに深く依存することは、将来的な移行コスト(スイッチングコスト)を高めます。また、自律型AIエージェントが社内データにアクセスしてタスクを実行する際、どのデータが学習に使われ、どのような権限でアクション(メール送信やデータ更新など)が行われるかというガバナンスの視点も不可欠です。コストモデルの安心感だけでなく、セキュリティとガバナンスの透明性をベンダー選定の基準に据えるべきです。
