米国の著名アナリストGene Munster氏は、2026年に向けてOracleが他の大型AI銘柄と比較してパフォーマンスが低下する可能性を指摘しました。この予測は単なる株式市場の動向にとどまらず、AI市場が「インフラ投資の熱狂」から「実用化とROIの追求」へとフェーズ移行しつつあることを示唆しています。本記事では、この市場の変化が日本の企業のAI戦略やインフラ選定にどのような影響を与えるかを解説します。
「AIトレード」の減速と市場の成熟化
資産運用会社Deepwater Asset ManagementのGene Munster氏は、CNBCの番組『Fast Money』において、Oracleの株価動向に触れ、AI関連銘柄への投資熱(AI trade)が落ち着きを見せ始めていると指摘しました。同氏は、2026年にかけてOracleが他の主要な大型AI関連銘柄(MicrosoftやGoogle、Amazonなど)と比較してパフォーマンスが下回る可能性があると予測しています。
この発言の背景には、生成AIブーム初期に見られた「GPUやクラウドインフラさえあれば評価される」というフェーズの終わりがあります。市場は現在、単なる期待値ではなく、具体的な収益化や競争優位性の確立を企業に求め始めています。OracleはOCI(Oracle Cloud Infrastructure)を通じた生成AI向けGPU提供で存在感を高めてきましたが、競合するハイパースケーラー(AWS, Azure, Google Cloud)との競争が激化する中で、その成長持続性に対する市場の目が厳しくなっていることを意味します。
日本企業におけるOracleの立ち位置と影響
日本国内において、Oracleは長年にわたり基幹システム(Oracle Database)のデファクトスタンダードとして強固な地位を築いています。近年では、日本オラクルがAI需要に対応すべく、国内データセンターへの巨額投資や、主権クラウド(Sovereign Cloud)への対応を強化しており、経済安全保障やガバナンスを重視する日本企業にとって重要な選択肢の一つであることに変わりはありません。
今回のアナリストの予測は、Oracleのサービス品質そのものを否定するものではありません。しかし、グローバル市場において「AIインフラの選択肢」が飽和しつつある中で、日本企業も「付き合いがあるからOracle」という選定理由だけでなく、コスト対効果(コストパフォーマンス)や、AIワークロードの特性に応じたベンチマークに基づく冷静な判断が求められるようになります。
インフラ選定における「マルチクラウド」と「適材適所」
AIモデルの学習や推論において、GPUコストは極めて大きな比重を占めます。OracleのOCIは、ネットワーク設計の効率性や特定の条件下での価格競争力に定評がありますが、生成AIのエコシステム全体(MLOpsツール、LLMのAPI連携など)で見ると、Azure(OpenAI連携)やAWS(Bedrock)、Google Cloud(Gemini)のエコシステムが強力です。
日本のエンジニアやプロジェクトマネージャーは、特定のベンダーに依存するのではなく、以下のような「適材適所」の視点を持つことが重要です。
- 秘匿性の高いデータや基幹データとの連携: ガバナンスや既存資産との親和性が高いOracleや国内クラウドを活用。
- 最先端モデルの試行やアプリケーション開発: エコシステムが充実しているAzureやAWSを活用。
市場の熱狂が冷めるということは、ベンダーロックインのリスクを回避し、実利に基づいたアーキテクチャ設計を行う好機でもあります。
日本企業のAI活用への示唆
Gene Munster氏の予測は、AI市場が「期待」から「実績」のフェーズへ移行していることを象徴しています。これを踏まえ、日本企業は以下のポイントを意識してAIプロジェクトを進めるべきです。
1. インフラコストのシビアな管理(FinOpsの実践)
「AI投資なら予算が出る」という時期は過ぎ去りつつあります。Oracleを含むどのクラウドベンダーを採用する場合でも、GPUリソースの利用効率を最大化し、無駄なコストを削減するFinOps(クラウドコスト管理)の考え方を、AIプロジェクトの初期段階から組み込む必要があります。
2. 既存資産(レガシー)とAIの融合
日本企業の強みは、長年蓄積された高品質な業務データにあります。Oracleを利用している多くの日本企業にとって、OCI上でのAI活用は、データを外部に出さずにAIを適用できるという点で依然として理にかなっています。株価予測に一喜一憂せず、自社のデータガバナンス方針に合致するかどうかを最優先基準とすべきです。
3. PoC(概念実証)から本番運用への壁を越える
投資家がAI銘柄を選別し始めたように、経営層もAIプロジェクトを選別し始めています。インフラ選定の議論に時間をかけすぎるのではなく、小さくとも具体的な業務価値(工数削減、顧客体験向上など)を生み出すことにリソースを集中させてください。ベンダーの将来性予測はリスク管理の一部として捉えつつ、目の前のビジネス課題解決に最適なツールを選ぶという基本に立ち返ることが重要です。
