2025年12月、Googleが高度な調査を行う「Deep Research Agent」を発表した同日、OpenAIは「GPT-5.2」をリリースしました。この二つの動きは、生成AIのトレンドが単なるチャットボットから、複雑なタスクを自律的に遂行する「エージェント」へと完全にシフトしたことを示しています。しかし、その実用化において「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」がこれまで以上に致命的な課題として浮上しています。
「対話」から「実務代行」へのパラダイムシフト
Googleが発表した新しい「リサーチエージェント」と、OpenAIの最新モデル「GPT-5.2」の同時リリースは、AI業界における競争の質が変化していることを象徴しています。これまでの競争は「いかに人間らしく流暢に話せるか」というモデルの性能(基礎体力)に焦点が当たっていましたが、現在は「いかに人間に代わって複雑な業務を完遂できるか」という「エージェント機能(応用力)」の競争へと移行しています。
エージェント型AIとは、ユーザーの指示に基づき、AIが自ら計画を立て、検索、分析、ドキュメント作成といった複数のステップを自律的に実行する仕組みです。特にGoogleの新エージェントは「深い推論(Deep Reasoning)」を特徴としており、長時間にわたる調査や分析業務を代行することを目指しています。
エージェント化で深刻化する「ハルシネーション」のリスク
しかし、こうした自律型エージェントの普及には、技術的に大きな壁が存在します。元記事でも指摘されている通り、「ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する現象)」の問題です。
従来のチャットボットであれば、回答に誤りがあっても人間がその場で気付き、修正することが容易でした。しかし、AIが自律的に複数の手順を積み重ねる「エージェント型タスク」では、初期段階での小さなハルシネーションが、その後の推論や行動全ての前提となり、最終的な成果物を大きく歪めてしまうリスクがあります。長時間稼働し、深い推論を行うエージェントほど、一度のミスが致命的なエラーにつながる「エラーの連鎖」が起こりやすくなるのです。
日本企業のAI活用への示唆
今回のGoogleとOpenAIの動きを踏まえ、日本の企業・組織は以下の3点を意識してAI戦略を構築する必要があります。
1. 業務プロセスの「モジュール化」と「エージェント適正」の見極め
労働人口の減少が課題となる日本において、自律型エージェントによる業務代行は極めて親和性が高いソリューションです。しかし、丸投げは危険です。まずは業務プロセスを細分化(モジュール化)し、「AIに任せてもリスクが低い工程」と「人間が判断すべき工程」を切り分けることが重要です。特に金融や医療、法務など、高い正確性が求められる分野では、AIはあくまで「ドラフト作成者」や「調査アシスタント」としての位置づけから始めるべきです。
2. 「Human-in-the-Loop(人間による確認)」の高度化
エージェント型AIを導入する場合、最終成果物のチェックだけでは不十分なケースが出てきます。AIがどのような論理でその結論に至ったかという「思考プロセス」を可視化し、人間が中間地点で介入・承認できるワークフロー(Human-in-the-Loop)を設計する必要があります。これは日本の商習慣である「稟議」や「確認」のプロセスを、AI時代に合わせて再構築することと同義です。
3. ガバナンスと責任分界点の明確化
AIエージェントが自律的に外部サイトへアクセスしたり、システム操作を行ったりする場合、予期せぬトラブル(誤発注や不適切なデータ収集など)が発生する可能性があります。企業は、AIエージェントに与える権限(アクセス権や実行権限)を最小限に絞る「最小権限の原則」を徹底するとともに、AIが起こしたミスに対して誰が責任を負うのか、社内規定やガイドラインを整備しておく必要があります。
