生成AIの進化は、単なるチャットボットから、自律的にタスクをこなす「AIエージェント」へと移行しつつあります。その中で重要となるのが、異なるエージェント同士が連携するための規格争いです。本記事では、新たな規格として浮上したA2A(Agent-to-agent)とAAIF(Agentic AI Foundation)の動向を解説し、日本企業が将来のAI基盤を選定する際に考慮すべきポイントを整理します。
「単体」から「協調」へ:マルチエージェントシステムの台頭
大規模言語モデル(LLM)の実務適用が進む中、AI活用は次のフェーズに入っています。それは、ひとつのAIモデルが全てを回答する形式から、特定の機能に特化した複数の「AIエージェント」が連携して業務を遂行する「マルチエージェントシステム」への移行です。例えば、旅行予約を行う場合、スケジュール調整を行うエージェント、航空券を手配するエージェント、決済を担当するエージェントが相互に通信し、ユーザーの目的を達成するイメージです。
しかし、ここで大きな課題となるのが「相互運用性(Interoperability)」です。Google、Microsoft、Salesforce、あるいはオープンソースなど、異なるベンダーやプラットフォームで作られたエージェント同士は、共通のプロトコルがなければ会話ができません。現在、この「エージェント間の共通言語」を定義しようとする動きが活発化しており、その代表例として「A2A」と「AAIF」という2つのアプローチが注目されています。
A2AとAAIF:異なるアプローチと規格争い
元記事でも触れられている通り、AIエージェントのエコシステムには現在、競合する青写真が存在します。
一つは**A2A(Agent-to-agent)**のアプローチです。これは主にGoogle Cloudなどが提唱するモデルで、特定のエコシステム内、あるいは提携パートナー間でのエージェント間通信を円滑にするものです。AIエージェントが他のエージェントを動的に発見し、APIを通じてタスクを委譲する仕組みを指します。実装が早く、ベンダーの強力なエコシステムに乗れるメリットがある反面、特定のプラットフォームへの依存度が高まる可能性があります。
対する**AAIF(Agentic AI Foundation)**は、Linux Foundationなどのオープンソースコミュニティ主導で設立されたコンソーシアム的な動きを指します。こちらは特定のベンダーに依存しない「オープンな標準規格」を策定し、異なる企業のAIエージェント同士が中立的に連携できる世界を目指しています。AWSやIBMなどが参画しており、長期的な互換性とベンダーロックインの回避を重視するアプローチです。
日本企業のAI活用への示唆
この規格争いは、かつてのWebブラウザ戦争やクラウド黎明期のAPI競争を彷彿とさせます。日本国内の企業、特にDXを推進する意思決定者やアーキテクトは、以下の点に留意してAI戦略を練る必要があります。
1. 特定ベンダーへの過度な依存リスク(ロックイン)の回避
日本企業はSIer文化が根強く、特定のベンダーソリューションにシステム全体を委ねる傾向があります。しかし、AIエージェントの分野は進化が極めて速いため、現時点で特定の「A2A」的な独自規格にフルコミットすると、将来的に他の優秀なAIサービスと連携できなくなるリスクがあります。当面は、APIの疎結合を保ち、可能な限り標準化されたプロトコル(あるいは将来AAIFなどが策定する標準)に移行しやすいアーキテクチャを採用すべきです。
2. ガバナンスと責任分界点の明確化
マルチエージェント環境では、「外部のAIエージェント」に自社のAIがタスクを依頼するケースが発生します。この際、日本の商習慣や法規制において重要になるのが「責任の所在」です。外部エージェントが誤った判断をした場合、誰が責任を負うのか。情報漏洩のリスクはないか。これらを制御するため、エージェント間の通信ログの監査や、データの出し入れを厳密に管理する「AIゲートウェイ」のような仕組みが、日本の厳格なコンプライアンス環境では必須となるでしょう。
3. 既存システム(Legacy)とAIの接続役としての期待
多くの日本企業が抱える「レガシーシステム」の問題に対しても、エージェント技術は有効です。レガシーシステムを大規模に改修するのではなく、そのインターフェースを叩く「専用エージェント」を作成し、最新のAIエージェントと会話させることで、擬似的なモダナイゼーションが可能になります。この際、A2AやAAIFといった規格が整備されれば、社内システムと社外のSaaSエージェントを安全に連携させ、業務自動化の範囲を飛躍的に広げることができるでしょう。
結論として、技術選定においては「今動くこと」を重視しつつも、将来的な「オープンな連携」の余地を残しておくことが、変化の激しいAI時代を生き抜く鍵となります。
