2025年12月、米国で発表された新たなAIに関する大統領令に対し、カリフォルニア州知事が「イノベーションではなく腐敗を助長する」と強く反発しています。AI開発の聖地である同州と連邦政府の方針の乖離は、グローバルなAI規制環境の不確実性を高めています。この対立構造が、米国の技術基盤に依存する日本企業のAI戦略にどのようなリスクと示唆をもたらすのか解説します。
連邦政府の規制緩和と「イノベーションの聖地」の懸念
報道によると、トランプ政権下で発令された新たなAIに関する大統領令(Executive Order)に対し、カリフォルニア州知事が強い懸念を表明しました。知事は、この大統領令が真のイノベーションを促進するものではなく、特定のプレイヤーに有利な状況を作り出し、健全な競争環境や倫理的なガードレールを損なう「腐敗」を招くものだと批判しています。カリフォルニア州はシリコンバレーを擁し、生成AIを含む現代のテクノロジー経済の中心地です。連邦レベルでの急速な規制緩和や方針転換が、現場である州の法制度や開発倫理と衝突する「ねじれ現象」が表面化しています。
「ブリュッセル効果」と「カリフォルニア効果」の狭間で
AI規制において、世界は欧州連合(EU)の包括的な法規制(EU AI Act)による「ブリュッセル効果」の影響を強く受けてきました。一方で、主要なAIベンダー(OpenAI、Google、Anthropicなど)の本拠地であるカリフォルニア州の州法や安全基準も、事実上のグローバルスタンダードとして機能する「カリフォルニア効果」を持っています。連邦政府がAI開発の加速を名目に規制を緩めたとしても、開発拠点が置かれた州が厳格な安全基準や透明性を求めれば、企業は厳しい方の基準に合わせざるを得ません。この二重基準の状態は、米国製AIモデルを利用するグローバル企業にとって、コンプライアンスの予見可能性を下げる要因となります。
技術選定における「ベンダーロックイン」と政治的リスク
知事の指摘にある「腐敗(Corruption)」という言葉は、特定の大手テクノロジー企業や政治的に近い勢力が優遇され、スタートアップやオープンソースコミュニティが不利益を被る可能性を示唆しています。もし連邦政府の方針が特定のプロプライエタリ(独占的)なモデルを優遇する方向に働けば、日本企業が特定の米国製LLM(大規模言語モデル)に深く依存することは、技術的なリスクだけでなく、政治的なリスクも抱え込むことになります。米国内の政治的対立によって、利用可能なモデルの制限や、データプライバシーに関する規定が突然変更される可能性も否定できません。
日本企業のAI活用への示唆
今回の米国内での対立は、日本企業がAIガバナンスと戦略を策定する上で、以下の重要な視点を提供しています。
1. 米国動向の多層的なモニタリング
「米国の方針」を一括りにせず、ホワイトハウス(連邦政府)の動向と、主要ベンダーが所在するカリフォルニア州の動向を分けて注視する必要があります。特にデータプライバシーやAIの安全性評価(Red Teamingなど)に関しては、連邦政府が緩和しても、州法やEU規制に準拠した厳しい基準が実務上のスタンダードであり続ける可能性が高いです。
2. 特定ベンダーへの依存度分散
政治的な意向で市場環境が歪められるリスクを考慮し、特定の米国メガテック企業のモデルのみに依存する「一本足打法」は避けるべきです。国内開発のLLMや、オープンソースモデルの活用、あるいは複数のモデルを切り替えて使える「LLM Gateway」的なアーキテクチャを採用し、外部環境の変化に強いシステム構成にしておくことが、BCP(事業継続計画)の観点からも重要です。
3. 日本独自の「アジャイル・ガバナンス」の確立
日本は「広島AIプロセス」などを通じ、G7間での国際的な相互運用性を重視していますが、米国の政策が不安定な今、追随するだけではリスクがあります。日本の著作権法や商習慣、組織文化に即した自社独自のAI利用ガイドラインを策定し、外部の規制がどう振れても揺るがない「自社の倫理的・実務的基準」を持っておくことが、現場の混乱を防ぐ鍵となります。
